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2019年12月05日15:17

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読書紹介1873●「8月15日に吹く風」

●「8月15日に吹く風」 松岡圭祐著 講談社文庫 17年版 740円
 本書は、太平洋戦争の敗色が濃くなった昭和18年、アリューシャン列島の西にあるクスカ島(米領で、日本が占拠)にある日本兵5200名を、奇跡的に無血撤収した史実に依って書かれた本。テーマは、戦時下における命の尊さである。
 「8月15日」とは、1943年のこの撤収作戦の決行日である。この作戦は陸軍の樋口中将という、かってソ満国境まで逃亡してきたユダヤ人に食糧、衣類、医療を提供して、上海租界への逃亡を手助けした人物がたてた。ソ満国境を越えたユダヤ人は、5000人もいたのだ。
 樋口の信念は、「救える物から救う」というもの。当時、千島列島の先のベーリング海には、米領のアッツ島、キスカ島、アダック島などがあった。日本は、地図上の判断でアッツ・キスカの2島を価値ある要域と決めつけ、極寒の気候や荒涼としたツンドラは、まるで考慮していなかった。2島の占拠など、米領に日の丸を立てられたという以外、なんの意味もなかった。
 すでにアッツ島は、米軍の艦砲射撃と空襲によって玉砕していた。次はキスカ島と、連日激しい攻撃が繰り広げられていた。樋口たちがこの作戦のための指揮官に選出したのは、51歳の木村少将であった。木村は、ガダルカナル(失敗した作戦)で敵機の魚雷9本をことごとく躱した凄腕艦長だった。
 その木村がまず招集したのは、気象専門士官だった。それは、ベーリング海が7月には濃霧に覆われることから、濃霧に隠れてキスカ島を包囲する米海軍の目を避けて救出する作戦をたてたからであった。
 招集された橋本気象専門士官は、より厳密に気象予測するために、当時アメリカで研究が始められていたが実用化されていなかった「高層天気図」(従来の地上と海上の測定値だけでなく、垂直方向にも多層的な変化も考慮した天気図)の作成に着手した。こうして、奇跡なような救出作戦が決行された・・・。という物語。
 アメリカ人はこれまでの「ハタキリや自殺願望」の伝説と、「日本では主婦や子供のような非戦闘員が、刺しちがえる覚悟で、上陸部隊に襲いかかる」という新聞の予想記事でつちかわれた、極端な偏見をもっていた。この過剰な思いこみゆえ、日本全土への空襲に抵抗がなくなった。原爆投下という異常な行為も容認した。
 この思いこみが誤りであると、米国上層部が認識するようになる(キスカ島撤収作戦を知って)のは終戦直前のことで、マッカーサーの戦後処理は、この認識の上で始められた。という訳。

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