●「玉村警部補の災難」 海堂尊著 宝島社 12年版 1524円
本書は、著者のメディカル・エンターテイメント・シリーズの1つで、登場人物は「チーム・バチスタの栄光」など（ドラマ化）に登場した、横紙破りで横柄なエリートたち。 本書の主人公は、警察庁のエリート・加納警視正。玉村は東海地方の桜宮市警察署の警部補で、加納が桜宮市に2年ほどいた時の部下。その加納警視正が、桜宮市でおきた事件にわざわざ霞が関から駆けつけ、玉村警部補を「タマ」と呼んで越境捜査の手足に使われ難渋する、という物語。
本書には、4話の事件が収録されている。第4話「エナメルの証言」では、広域暴力団・竜宮組の幹部が桜宮市に本部を移転させた頃から、事件が多発する。それは、幹部が遺書を残して次々と焼身自殺（一軒家での家災で）したことだ。
自殺と断定されたのは、�ー�筆の遺書が残されていた、�⊂道狢里了�形が、本人の過去の治療痕と一致したことである。加納は、5人目の焼死体のAi診断を、桜宮市に建設中の「Aiセンター」に依頼する。
Aiとは、死亡時画像診断と訳される。死因を調べる基本検査である解剖制度は、日本では実質的に破綻している。解剖は1体に半日もかかるし、その報告は半年後。それでも、8割の死因しかわからない。さらに、全変死体の解剖率は1〜2％台にすぎない。Aiなら検査は分単位で終わり、1時間で診断を公表できる。Aiなら、全変死体の50％が実施可能である（Aiは、病院にあるCTでも画像診断が可能）。
という訳で、焼死体をAi診断したところ、治療歯に被せられていたエナメルが、ただのアルミホイルだったことがわかる。身元不明死体に、幹部の治療痕を歯医科手術したのだ。やがて、成田空港ロビーで、死んだはずの幹部が逮捕される。という物語。
第1話「東京都23区内外殺人事件」でも、神奈川県と東京都の境の土地で、暴力団員の変死体が相次いで発見される。ところが、神奈川県の田上病院の診断では「病死」とされ、事件性なしで決着。田上病院では、年間1000件もの解剖をしていることになっていたのだ。この遺体を、加納が再び田上病院に運びCTによるAi診断を強要する。結果は、「水死」であった。
田上医師は、体表面だけを見て「病死」として検案書を書いていたのだ。年間1000件も解剖できる訳がなかった。つまり、暴力団は検死体制のいい加減な所を熟視していて、死体を運んでいたということでした。
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