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2022年09月28日13:25

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読書紹介2230●「だまってすわれば」 

●「だまってすわれば」 神坂次郎著 小学館文庫 99年版 638円
 本書は、大坂人・水野南北という天下一の観相師の、史実にもとづく一代記である。南北は5歳で両親を失い、10歳で酒の味をおぼえてグレはじめる。今でいう「反グレ」である。そこで、恐喝や強盗、古証文をネタにした示談屋などの荒稼ぎをして、20歳で牢獄に1年間投獄される。
 命からがら牢を出た南北は、旅の乞食坊主・水野海常から「死相がある、半年の命」と言われる。海常の観相に、極道顔の南北はいちいち納得させられる。海常は、運命を避ける法もある「味のない麦と豆を食べろ」ということだった。
 ところが、これが不味くて食べられない。「腹が減れば食べられるだろう」と、南北はお寺の手伝いに押しかけるのだが、その極道の面貌ゆえに断られる。そこで南北は、寺の掃除を勝手に全部やりだしたのだ。
 これが成功した。麦と豆が食べられたのだ。そして気が付いたら半年が過ぎていた。命拾いをした南北は、海常の弟子となる。その海常は、「生きた観相は、実際に千人・万人の顔を見ること」と、南北に旅を命じる。
 こうして万人の顔を見るため、6年間にわたり諸国を巡った南北は大坂に戻ってくる。大坂では髪結床で3年、裸のにんげんを見るために風呂屋の下働き、死顔の研究のため千日墓所の火葬場にもぐりこむ。
 変転の末、「相師」の表看板をあげたのは31歳の時。すると、南北の実力を聞きつけて全国から弟子にと押し寄せてきた。なかには自ら弟子を持つ観相師もいて、孫弟子を合わせるとそれが1000人を超えたのであった。
 ところが、南北にも弱点があった。惚れた女の観相が当たらないのだ。南北は、生涯に18人の妻を迎えたが、そろいもそろって悪妻であった。悪妻から逃れるため、33歳で再び修行に出た南北。極道だった南北は、同じ所に居続けることが苦痛であった。
 南北の修行は続く。南北の凄いところは、「禍を福に転ずる」術を編み出したことだ。それは、師の海常から教えられた「食を慎む」ということ。これを極意にまで極め、「禍を福に転ずるの道が食に在り」として「相法極意、脩身録」という本にして、市井のひとに読まれるようにしたのだ。これは、現代の「校内暴力は、偏食や食事の乱れからおこる」説と一致する、慎食の教えである。
 南北の一生は、波乱万丈・抱腹絶倒の快事の連続であった。数々の難事件を解決したりもしている。極道あがりの饒舌を屈指して、「人間が生きる」という相法の根源を追い求めたのでありました。

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