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2022年07月15日08:33

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読書紹介2203●「人面瘡探偵」

●「人面瘡探偵」 中山七里著 小学館 19年版 1600円
 本書の主人公は、〈古畑相続鑑定〉の鑑定士・三津木。今回の依頼主は、信州随一の山林王と呼ばれた本城家。本城家は、古くから豪商として近郷近在に権勢をふるった一族であり、昭和30年代後半の建築ラッシュで一大木材王国を築きあげた。その当主が死に、相続が発生したのだ。ちなみに、遺言状はなかった。
 本城家は信州の山奥にあった。驚いたことにケイタイは圏外で、あたりにコンビニはない。バス停まで行くにも車が必要だった。相続人は4人いた。家父長制が歪んだかたちで残った家柄で、長男が権柄づくな形で君臨しようとしていた。この地域に住んでいるのは、昭和30年代の意識の人間ばかりで、男尊女卑が徹底していた。
 さっそく資産価値の調査に入った三津木。実はこの三津木、右肩に幼い時の怪我でできた痣が盛り上がっていた。その痣が「人面瘡」(傷が人の顔のようになり、意思をもって喋ったりする)となり、三津木に話しかけるのだ。
 本書では、消極的でネガテブな三津木に対し、この人面瘡があれこれ指示したり知恵を授けたりする。おかげで、本城家で次々と相続人が殺されていく探偵の役を三津木は負わされていくのだ。
 いくつもある山も、現在では二束三文の価値しかない。このままでいくと、負債のほうが多くて相続放棄を提案する状況だった。ところが山に分け入った三津木は、崖崩れのあった場所に遭遇する。地肌が露わになった場所に、何か白い地層があった。そのサンプルを地質調査会社に送ったところ、それはモリブデンであった。
 モリブデンは、特殊鋼として自動車・航空機のエンジンやタービーの部品、ハイブリットカーやロケットの電子基板、ケータイとかの液晶パネルに使われるものだった。二束三文と思われた山に、莫大な価値を見出したのだ。これは「無用な争いを誘発する」と、顧問弁護士の柊が三津木を「疫病神」と罵る始末であった。
 ということで、長男の提案で宴会が開かれた翌日、長男夫婦が蔵の中で焼き殺される。次に、二男が近くの滝から突き落とされ死亡。三男も、川に流され死んでいるのが発見される。相続人が、次々と殺されたのだ。
 残った家族は、長女とその息子。長女は結婚して本城家を出たが、知的障害の息子を産んだあと離婚し実家に戻ったのだ。ところでこの地域では〈福子〉という風習があって、障害のある子供はその家に富をもたらすと信じられていて、当主だった蔵之助が孫を溺愛したのだ。
 そして、この長女にも毒が盛られる。発見が早く、命を取り留めた長女。こうして、兄弟間の確執、昭和の遺物のような因習、濃密な人間関係、どれも禍々しくてうっとうしい状況のなかで、人面瘡探偵が活躍する。
 やがて、寺の「人別帳」から本城家の江戸時代からの家族構成と変遷がよみとかれ、本城家が3代ごとに短命な子供が生まれていることがわかる。果たして、〈福子〉はなぜどのように生まれて来たのか。それと事件の関わりは・・・、という物語。
 

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