●「とせい」 今野敏著 中公文庫 07年版 800円
本書は、のちに「任侠書房」と改題される。つまり、任侠シリーズの第１弾である。ヤクザというと、�ゞ貌察↓∨塾話帖↓Ｇざ△鯱∩曚垢襦��，鉢△魯▲Ε肇蹇爾世�、著者はアウトローが大嫌いなんだそうだ。残ったのは任侠だが、これは60〜70年代に流行ったヤクザ映画の高倉健さんの役どころ。
本書の主人公の阿岐本組の代貸・日村は、高倉健さんみたいにかっこよくはない。それどころか、苦労性でオヤジの無理難題（それが本書での倒産寸前の出版社の建て直し）を黙って引き受けなければならない立場なのだ。
ということで本書では、学校もろくに出ていない日村が、子分たちの知恵やアイデアを借りて、出版社をみごとに建て直していく姿が描かれる。出版社は著者にとって、身近な存在である。ここには、今の出版業界が抱えている問題や、作者と編集者のあるべき姿（著者の願望）が赤裸々に描かれている。
それだけでも読んで面白いのだが、そこにヤクザの行動様式も挿入される。例えば、「ヤクザの最大の武器は暴力ではない。情報なのだ。そして、ヤクザにとって一番大切なのはとにかく行動することだ。堅気がヤクザに勝てないのは、必死に考えないからであり、すぐ行動しないからだ」。とか、「揉め事の仲介は、ヤクザの得意技だ。揉め事をおさめてそのカスリをいただく、それもシノギの1つだ」とかである。
今回は、いち早く情報を入手して、縄張り内で火点けをしようとしているチンピラ３人を捕まえたり、火を点けられた工場内の溶剤（爆発する）を守るために、火中に飛び込む日村の必死な姿など、素人さんを守るための献身ぶりは感動的ですらある。
本書は、笑いと感動の小説でありました。
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