●「西南の嵐」 松井今朝子著 集英社 10年版 1400円
銀座開化事件帖シリーズの3。本書のテーマは「西南戦争」である。
前年に施行された徴兵制で集められた百姓・商人が、初めて戦場へと駆り出されたのだ。江戸時代まで戦いは武士のすることで、庶民には関係なかった。それが文明開化の日本では「国民は平等」とのことで、刀を持ったこともない兵隊が前線に出されることとなった。その様子を、本書では赤裸々に描いている。
本書では、宗八郎の年上の妻・比呂が胃がんで亡くなる姿も描かれる。人は死ぬとどうなるか、人々が頼りにする「神」なるものが人々にどう思われているのかが描かれる。なかでも、死に逝く比呂の想いが「死に場所を探している」宗八郎の身の上にあること。宗八郎に想いを寄せる綾に、自分の「切なる想い」を託す場面には、泪せずにはいられない。
同時に、戦争によって人々が殺し合う世の中を改める闘いが必要だと、キリスト教徒の原と若様が日本初の「平和の集い(祈り)」を開くに至る歴史的意義も、胸に深く刻まれたのでありました。
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