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2016年12月07日12:48

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読書紹介1596・「受難」

●「受難」帚木蓬生著 角川書店 16年版 1800円
 本書の主人公は、ES細胞とiPS細胞をもとに蘇った高2の春花(ユンファ)である。テーマは2014年韓国フェリー(本書では世月号)転覆事故で、救助の不手際で乗客の2割しか助からず、わけても済州島に修学旅行のため乗り込んだ高2生徒250名が犠牲になった事件である。
 本書では、この事件の背景を深く掘り下げて明らかにしている。世月号の安全を無視した改修、積載量のオーバー、バランスをとる水をいれなかったこと等々。さらに、韓国軍や米軍しか航行できないルートを航行していた事実や、積載物には軍の物品を運んでいた等々。そして、世月号の実質的オーナーが政府閣僚等に賄賂をばら撒き癒着していたことなど、韓国政界の闇の深さが描かれていく。
 蘇った春花は、過去の記憶があいまいである。母は亡くなり、これまで年に2度ほどしか会っていなかった祖父と暮らすこととなった。この祖父が、溺死した春花を蘇らせるため数十億円もの資金をだしたのだ。やがて、少しづつ記憶が蘇ってきた。自分が、母と2人で世月号に乗っていたことを思い出す。そして、一緒に住んでいる祖父の正体にだんだん気が付いていくのだ。
 春花は1〜2カ月に1度、再生治療をした麗水細胞工学治療院(本部は博多にある)に入院する。1ヶ月もすると全身の肌に亀裂が走り、ほおっておくと老婆のように皺だらけになるのだ。肌だけが、老化がいちじるしいのであった。そんな状況のなかで、春花は自分が第2の命を授かった理由について自問自答をくりかえすこととなる。
 本書では、そんな春花の治療院や祖父と暮らす島での日々をたんたんと描写しながら、春花の決意とその運命を描いているのでありました。
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