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2023年12月10日09:13

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読書紹介2352●「後宮小説」 

●「後宮小説」 酒見賢一著 新潮文庫 89年版 550円
 本書は、著者の処女作である。中国とおぼしき国の、西暦1607年から物語が始まる。主人公は、僻地もどきの土地に生まれ育った銀河(14)である。皇帝が腹上死(崩御)し、皇太子が即位した。古い後宮は廃され、新しい後宮をつくるため「宮女狩り」が行われる。銀河の住む土地にも宦官が来て、「宮女募集」が行われた。銀河は、「面白そう」と応募したのだ。
 集められた宮女候補の選抜と教育がおこなわれた。この国のおもしろいところは、広く民衆から宮女候補を集め、身分制度を無視したような仕組みと教育をもって女官の上下を定めたことである。これによって、外戚(正妃の親戚)の害を水際で食い止めた。しかし、弱点もあった。宦官勢力を抑えることができなかったのだ。
 さて「女大学」のことである。宮女候補が教えられたこととは「房中術」であった。そんなことは知らない銀河は、「きっと学校だ」「一度学校に行ってみたかった」とワクワクするのだ。教えるのは、70を過ぎた老師・角先生。この角先生、房中術を哲学にまで昇華させ、一大体系をつくりあげてしまったのだ。
 その根本思想とは、この国の太古の神話から発生したもので、「すべての真理は、子宮から生まれる」というもの。この神話を思想的に定着させ、国家の儀式として制度化した人である。
 銀河は角先生が大好きになる。銀河はまだ初潮をむかえていない女童であった。その銀河にもようやく飲み込むことができた。つまり後宮自体を女の生殖器に見立てて、その生理を制度として後宮を機能させる、という内容であった。しかし、講義のあとに実技があった。これを、角先生の愛弟子・菊凶が宦官相手にやってみせるのだ。銀河は菊凶には虫唾が走るので、居眠りを漕いでいた。菊凶はあとで、野望を持ち国家転覆を図るが、あっけない最期をとげる。
 教育を終えた彼女たちは、試験のあと等級が決められる。なんと銀河は、第1位の「正妃」に選ばれた。それには、17歳の皇帝の都合があったからだ。銀河には、貴人を敬うとかの観念は少しもない。「なにか楽しいことはないか」と、興味津々に目を輝かしている女童のままで、なんの邪気もなかった。それが、皇帝に気に入れられたのだ。
 そんな時、地方で反乱が勃発する。幻軍(幻影達の軍)という遊侠集団が、試みに起こしたのだ。つまり、退屈まぎれである。金が入ると妓楼で遊び惚ける集団であった。その予期しない行動で勝利を重ね、数を次々に増やして一大勢力となってしまった。これが、とうとう皇居を襲うまでになる。これには、国の大将軍も逃げ出す始末となった。敵前逃亡である。
 残ったのは後宮の銀河たちだけということで、銀河は後宮軍を組織。幻軍に立ち向かって行く、という物語。なんとも軽やかで、ハチャムチャな物語。面白かった。
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