[難易度:2、時間:12分]
これがこの会社でやる最後の仕事になるかもしれない。会社は今にもつぶれそうだしこの仕事が終わったら大学に戻ろっかな──1987年、そんなことを考えていた青年がおりました。彼は大学在学中に友人と一緒にとある電気工事会社に入社、そこのソフトウェア開発部門のスタッフになっていたのです。
彼が最後の仕事と見定めていたのはとあるゲームソフトの開発。ゲームの名前は最後の夢という想いを込めて「ファイナルファンタジー」と名付けられました。
結局──坂口博信というその青年が大学に戻ることはありませんでした。彼の予想に反してゲームは大ヒット。彼はシリーズ総売り上げ1億6千本を超す世界的な人気ゲームのチーフディレクターとして長く活躍することになるのです。
起死回生という言葉があります。元々は死にかかった人を元気にしちゃう凄い医術を指す言葉ですが転じて崩壊寸前、敗北寸前の状態から一気に盛り返す様を指します。ファイナルファンタジー誕生のエピソードはまさにそれを地で行く話ですね。
2001年広島に流行らなくて潰れかけていたラーメン屋がありました。そこの店主が中国人留学生が主催するお料理講座を受けたのはちょっとした偶然が重なってのことだそうです。
「これはマジで旨い」
彼が習ったのは汁なし担々麺。マジでその魅力にハマった店主はすぐに中国に渡航。汁なし担々麵を片っ端から食べ歩いて本場の味を研究しました。そして店の看板をラーメン屋から汁なし担々麵専門店に変えて再出発。当時、汁なし担々麵の認知度は低かったにもかかわらず誰もが「これはマジで旨い」と言って一気に人気店の仲間入りを果たしたとか。
起死回生のチャンスはただ漫然と終焉を待っているだけの人には訪れてくれません。坂口博信がこれが最後の仕事になるかもしれないと思いながら制作中のゲームに全精力を注ぎこんだように、広島の「きさく」というラーメン屋の店主が汁なし担々麵の魅力に憑かれて四川省を渡り歩いたように努力する人のその先にこそ待ち受けるものです。
ということで、汁なし担々麵誕生から二十余年。店主の努力に敬意を込めて汁なし担々のうどんバージョンを作ってみました。
[材料](1人分)
・うどん:1玉
・豚またはあいびきミンチ:30g
・白ネギ(白いところ):3cm
・生姜:スライス1枚
・ごま油:4g(小匙1)
・白ネギ(緑のところ):10cm
・炒りごま:小匙1
[肉ダレパート]
・濃口醤油:3g(小匙1/2)
・味噌:6g(小匙1)
・豆板醤:6g(小匙1)
・花椒:小匙1/2
[タレパート]
・熱湯:30g(大匙2)
・鶏がらスープの素:2g
・濃口醤油:3g(小匙1/2)
・すりごま:小匙2
[作り方]
1.うどんを茹でる湯(分量外)を沸かします。沸いたらうどんを加えて規定時間茹でます。
2.白ネギ(白いところ)と生姜はみじん切りにします。白ネギ(緑のところ)は1mm幅の小口切りにします。
3.フライパンに白ネギ、生姜、ごま油を入れて弱火にかけます。香りが立ってきたら[肉ダレパート]を加えて中火にし肉がカリカリになるまで炒めます。
4.丼に[タレパート]の熱湯以外を入れておきます。やかんに[タレパート]用の熱湯少々を沸かしておきます。
5.うどんが茹で上がったらざるに揚げて湯を切ります。4.の丼に大匙2杯分の熱湯を注いでよく混ぜます。これにうどんを入れその上に3.をトッピングして白ネギ(緑のところ)、炒りごまを散らせば半ば完成。「いただきます」をしたら無心にうどんをタレ、肉ダレに絡めるようにしっかりかき混ぜればできあがりです。伸びないうちに戴きましょう。
[備考]
・めちゃ辛い。そして花椒に舌が痺れる。けど美味しい。ヤミツキになって一気に食べちゃいました。本家のラーメン版も良いですが淡白なうどんもありですね。
・ポイントは「麻(マー)」と呼ばれる花椒の痺れるような辛さと「辣(ラー)」と呼ばれるホットな辛さの波状攻撃。今でこそしび辛は珍しくなくなりましたがこの味に2000年早々にたどり着いていたのはなんともすごいなぁ。
・この料理は汁なし担々麵の本歌取りです。本家でも麺は熱盛(茹で上がった暑い状態)で提供されるそうなのでこのレシピでもうどんは水で〆ず、釜揚げの状態で食べるスタイルにしました。
・食べ終わったら残った汁に少量のご飯を加えて〆にするとまた美味しいですよ。
・広島の元祖汁なし担々麵「きさく」は胡麻を使わないのが特徴ですが僕的には胡麻が大好きなのでこのレシピではたっぷり使っちゃいました。
・[タレパート]のすりごまは手持ちがあれば練りごまにすると更に胡麻の風味がアップします。
ということで、よければ一度お試しください。
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