●「月人壮士（つきひとおとこ）」 澤田瞳子著 中央公論新社 19年版 1700円
上皇・聖武天皇が「皇太子は道祖王に」（孝謙天皇の時）との遺言をして死んだが、これに納得できない者がいた。前の左大臣・橘諸兄である。諸兄は、聖武の末期の「遺詔」があるのではと、それを探る2人の男を招いた。
それが、道鏡（内宮の内道場の看護禅師）と中臣継麻呂である。ということで、2人は6人の人に聖武天皇の「遺詔」なるものを聞いて回ることになるが、肝心の諸兄は2か月後には亡くなってしまった。
その6人とは、�￣瀛�女王（まどかのおおきみ・聖武の身辺の世話をやく宮人）、��光明子（聖武の正妻）、�１彪院米眛讃豼技佞僚昭圈法↓け�焼王（道祖王の兄）、�ズ看貂Ｌ喊諭並づ貘膸�の司長官）、�ζ８驚臻穗ぁ文�明子の甥で、孝謙天皇の寵愛を受けている）である。
そこで明らかになっていくのは、聖武がどんな気持ちで生涯を終えたかということであった。持統天皇（天武天皇の妻で、聖武の曽祖母）以来、かっての大王の如く非の打ちどころのない帝となれ、と厳しく育てられたのが聖武であった。ところが、聖武の母・宮子は皇族でもない藤原不比等の娘であった。これでは「非の打ちどころない帝」とはいえないと、聖武は悩んでいたのだ。それは宮子も同じで、宮子はそのために心を病んでしまった。
聖武は、日輪の裔たる皇統と臣下である藤原氏の2つの血を継ぎ、母方の藤原氏の助けを借りて帝位についた。そして妻には、不比等の末娘をを娶り、皇統でもないのに皇后にしたのだ。これは山たる皇統が、海たる藤原氏との融合を象徴する天皇なぞではなく、ただ海に切り崩された山の残滓としての天皇だ、ということ。これを称して、聖武は山の形を借りた海、日輪の真似をした哀れな「月人壮士」だという訳。
そんな聖武は、京（みやこ）をあちこちに定めて彷徨い、渡来の御仏に帰依したりと、この国の礎たる立場を捨ててしまった。そんな自身の身を悔いて、真の皇統につらなる道祖王を皇太子にと遺言したのだ。
ところが、この「遺詔」探しを利用したのが仲麻呂であった。道祖王より御し易い大炊王を皇太子にと力づくで担ぎ出したのでありました。
ログインしてコメントを確認・投稿する