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2022年10月06日12:43

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読書紹介2232●「連続殺人鬼カエル男」

●「連続殺人鬼カエル男」 中山七里著 宝島社 11年版 600円
 本書のテーマは、刑法第39条の責任能力論の是非、「心神喪失者の行為はこれを罰せず」との規定の問題である。
 マンションの13階からぶら下げられた、女性の全裸死体が発見された。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文が。「きょう、かえるをつかまえたよ・・・」で始まる、ひらがなだけの文字であった。
 死体からは通常、犯人の昏(くら)いながらもたぎるような激情が表出しているものだが、この死体からはひたすら冷気しか感じられない。犯人は死体を死体とさえ思っていない、単なるオブジェかマネキンぐらいにしか認識していないことが伺えたのだ。
 やがて、同一犯による第2(老人)、第3(子供)の殺人が短期間に集中して(埼玉県飯能市)起こる。無秩序な猟奇殺人である。これによって、飯能市の住民はパニック状態に。マスコミは、犯人を「カエル男」と命名した。ここに、カエル男が冷静沈着な殺人享楽者であるというイメージが定着したのだ。
 警察は、何の手がかりも得られずにいた。しかしその手口から、犯人像が浮かび上がる。かって殺人を冒しながらも刑法第39条で無罪となり、医療刑務所を経て世間に出された人物、いわゆる虞犯者である。
 飯能市民は恐れ慄(おのの)いた。標的が女性、老人、子供と社会的弱者に偏っている点、その3人に何ら関連性が見られない事実、そして死体を玩具のように弄ぶ猟奇性に。やがて第4の事件が。そこで分かったことは、被害者の名前が「あいうえお」順で選ばれていることであった。
 市民は、自警団を各地で結成していた。やがて「虞犯者の名簿を寄こせ」と、自警団=暴徒と化した群衆が警察署に押しかけた。警察は自警団を取り締まる権限はない。それを良いことに、今や暴徒となった彼らの武装化は少しずつ先鋭化し始め、警察署になだれ込み、1階、2階を占拠したのだ。
 これは、規模は小さいけれども県警本部や保護司の家にも及んだ。もちろん、顕在化していた虞犯者にも暴徒は押し寄せたのだ。本書の主人公・新米刑事の古手川は虞犯者名簿の1人・当真(18)の監視と保護を行っていて、1つの事実に気付く。
 それは、「あいうえお」順に選ばれた被害者の名簿が、病院のカルテではないかということ。当真が歯科医院に雇われていたことからの発想だった。歯科医院のカルテを調べてみると、全ての被害者の名が・・・。
 本書では猟奇殺人の禍々しさと同時に、加害者自身が幼児に受けた虐待(精神を蝕む程の)の禍々しいものであったこと。そして、精神科医や医療刑務所での治療の難しさが描かれる。又どんな人間にも巣食っている「正常」と「非正常」の様子が見事に描かれるのだ。
 最後の、2転3転するどんでん返しには、驚かされるのでありました。
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