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2015年10月03日09:24

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読書紹介1450・「北京から来た男 上」

●「北京から来た男 上」 ヘニング・マンケル著 東京創元社 14年版 1600円
 本書のテーマは、「中国」である。それも、極貧の民衆のこの150年間の抑圧され虐げられた運命との戦いの歴史である。本書は冒頭で、スウェーデン北部の森の小さな村で19人の老人たちが殺されたこと。全員が親戚関係にある一族の者であったこと。20年前にこの村に移住してきた3人は、何も知らずに生き残っていたこと。殺害は、鉈のような凶器でおこなわれたこと。近くに、赤いリボンが落ちていたことが描かれる。
 本書の主人公は、もうすぐ60歳になる(2006年に)女性裁判官のビルギッタ。この寒村は、ビルギッタの母が幼い時に養子となって過ごした村だったのだ。ビルギッタは60年代の大学生だった頃、ベトナム反戦に沸く世情の中で左翼セクトに所属し、毛沢東語録を掲げていたことがある人物であった。ということで、母の古い日記や手紙の束のことを思い出し、それを読んだり、その村を見るため出かける(ちょうど、医者から1週間の休暇を命じられていた)ことに。
 ここで本書では、150年前に中国の広東省でクーリーになるべくやって来た3兄弟のことが描かれる。その当時の広東省は、極貧の小作農民が仕事を求めて押し寄せていたのだ。やがて3兄弟は、暴力的に拉致されアメリカ行きの奴隷船に乗せられる。その際、末弟は殺され海に投げ込まれる。兄弟2人が行った所は、アメリカ横断鉄道の建設現場で、ここで2人はスウェーデン人の現場監督J・Aの暴力に震えながら奴隷状態で働かされることが描かれていく。
 このJ・Aこそが、大量殺人事件があった一族の出であった。こうして、3年間の奴隷状態から抜け出した兄弟は、中国へ奇跡的に帰還する。このワン兄弟の物語は、弟のワン・サンによって書き遺されていく。本書は、殺人事件を扱っているが推理小説ではない。ここで、ワン・サンの子孫が現在の中国で成功者となっていること(従って、中国共産党の幹部となっている)。その彼が、ワン・サンの恨みを果たそうと、その財力を使って暗殺者を放ったことが描かれるのだ。
 上巻では、ビルギッタが殺人現場の周辺から発見されたリボン(寒村に近い都会の中国料理店の飾だった)から、中国人の存在を突き止めるのだが、警察に無視されたままになるところで終わっている。しかし、母の古い手紙の束の中と、寒村の母の養子先であった家にあった日記類(双方に、J・Aのものがあった)によって、次第にJ・Aが浮上することが予感されていくのでありました。

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