●「ファイナル・オペラ」 山田正紀著 早川書房 12年版 2000円
オペラ第3部作目。黙忌一郎シリーズである。本書は、忌一郎12歳が昭和6年に登場する。舞台は昭和20年8月2日の八王子である。8月2日というのは、八王子が大規模な空襲をうける日である。この日に、14年に1度だけ開催される長良神社での「長柄橋」という秘能が執り行われる。
長柄橋とは、無為無策に子供たちを死なせた人類の罪をあがなう贖罪能であると同時に、死んでいった者たちの霊を弔う慰霊能であった。そのテーマは、人買いの藤太に息子・梅若丸を攫われた(梅若丸はその後、弱ったため長良橋の袂に捨てられ死んでしまう)母親・花御前が、改心して仏門に帰依しようとする藤太を許さず、これを衆人環視の中で殺害しようとするものである。その解釈は、代々の長良神社の神主を継いだ者にまかされていた。
長良神社と検閲図書館との関係である。実は、この2つは古代より浅からぬ因縁があって、どちらも国家権力を監視、浄化する役職を授かっていたのだ。「検閲図書館」の黙忌一郎には、記憶力と洞察力で。神主である明比一族は、「物狂い」の特異能力で。
ということで本書では、終戦ま近な八王子を舞台に、何千何万という子供達が飢餓や戦火によって命を奪われていくことを糾弾する物語なのでありました。
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