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日記一覧

 大江健三郎「同時代ゲーム」は、野心作にして怪作である。ここでは、語り手とその妹が伝承と化しかけている。妹のほうはすでに伝承世界にいて、語り手はその途中にいるというところか。伝承に行ってしまえば語り手になれないわけだから。先の「森のフシギの

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 大江健三郎「同時代ゲーム」新潮文庫1984(単行本1979)、「M/Tと森のフシギ物語」岩波・同時代ライブラリー1990(単行本1985)の2冊は、6年間をへだてて出版されたが、ほぼ同一の四国の森の伝承エピソードを核としている。 初めの「同時代」は、野心

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 キャサリン・パターソン「テラビシアにかける橋」偕成社文庫2007(単行本1981、原著1977)は、兼業農家で、4人の姉妹に挟まれた少年ジェシーと、田舎に引っ越してきた作家夫婦の一人娘レスリーとの、短い友情の物語である。テラビシアとは、二人で作ったツ

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 ジャネット・テーラー・ライル「花になった子どもたち」福音館2007年は、5歳の問題児ネリーと、その付きっきりの介護人の姉が、事情を知らない年取った大伯母に預けられることから始まる。ネリーの問題とは、姉にしか心を許さず、少しでも気に障る事がある

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散歩道のスケッチ(1)
2011年06月20日08:23

  耳をすませば  耳をすませば 鳥の声が 風の音が やってくる たたずめば 山のまなざし 雲の笑顔が 受け取れる そのまま 進んでいけば 得たものを 失うことはないだろう  無名の海 分かつことが 分かることだと これは人の知恵 そして、

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 村上春樹「海浜のカフカ」新潮文庫、2005年(単行本2002)は、難解をきわめるが、小説の謎を解く探偵としては、いつまでも逃げているわけにはいかない。ノーベル賞の有力候補とされているので、なおさらである。 難解の要因は、小説にあらわれる象徴的なモ

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 中島京子「小さいおうち」文芸春秋 2010年は、昭和戦前の上流家庭の女中さんを語り手、主人公とした直木賞受賞作である。 物語は、奥様付きの女中として、奥様夫婦が戦災死するまで仕えていた十数年間の生活をたんたんとして語るのだが、その核となって見

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 庭に、強い風が吹きこんできました。しんいち君は、いそいで縁側にあがってガラス戸を閉めました。しんいち君は、風がちょっぴり怖いのです。 「でも、僕ぐらいの風とはお友達なんだよ。」 おかあさんにからかわれると、いつもそう言います。 今、おかあ

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 佐藤愛子「血脈」文春文庫2005(単行本2001、雑誌掲載12年間)は、佐藤紅緑、その長男サトウ・ハチロー、その異母妹の著者自身などを中心とする佐藤一族の物語である。昔、「花は紅」というテレビドラマをちらっと見たことがあるが、あれが明とすると、この

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 仁木英之「僕僕先生」2006年 新潮社は、第18回日本ファンタジーノベル大賞受賞作である。 唐の玄宗皇帝がまだ名君だった時である。前県令の息子王弁は、二十歳すぎても何もせず、ただ父の財産で暮らすことだけを考えているニートであった。父の心配の種は

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 サミュエル・ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」白水社1990(1952、初演1953)は、学生のころ、その評判を知って、手に取ったと思うが、詳しい内容については記憶が定かではなかった。今回、あらためて読んでみたが、読んだしりから記憶が落ちていく。記

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 森見登美彦「太陽の塔」新潮文庫2006.6(新潮社2003.12)は、京都を舞台として、はみ出し学生たちの生理・生態を描いた物語であり、梶井基次郎「檸檬」のような幻想に結実する都市小説のようでもある。これが、第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した

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