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2023年12月04日09:03

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読書紹介2351●「鴎外 青春診療録控2ーー本郷の空」 

●「鴎外 青春診療録控2ーー本郷の空」 山崎光夫著 中央公論新社 23年版 1850円
 明治14年(1881)、鴎外20歳の時である。鴎外は東大医学部本科5年生を卒業(年齢をごまかし15歳で入学した)後、千住の父の診療所・橘井堂医院を手伝う。文部省のドイツ留学生となることを熱望し、みずからの進路に煩悶していた。だが市井の一医師である父の姿に「理想の医療」のあり方を見出してゆく。そんな成長物語が本書である。
 本書には10話が収録されている。表題の「本郷の空」では、2つの話が同時進行する。1つは、父の最近の道楽である「茶」のつきあいで、千住の名家・名倉家(骨つぎ業の達人)に行って相談を受ける。
 「東大医学部別科(3年制)に通っている息子が、実家に帰ってこない」、とのこと。鴎外はそれを受け、お抱え外国人教授・スクリバ医師を訪ねたあと、本郷赤門前の名倉謙蔵の下宿先を訪ねる。謙蔵はドイツ語のことで悩んでいた。ドイツへの私費留学を父親が熱望しているのだが、その期待に応えきれないのだ。鴎外は、「お父上は謙蔵さんに会いたいはずだ」と、伝えるのであった。
 2つは、医院を梯子する変な患者がいたこと。「腹具合が悪い」とのことであったが、父の見立てではどこもおかしくない。その患者がある日、名倉家の医院からスタスタと速足で帰って行くのを鴎外は見た。名倉氏にそのことで尋ねると、「足首を捻挫したと来たが、捻挫の所見はなかった」「わたしは処方盗みかと疑っている」とのこと。
 そんな時、父の佐倉順天堂時代の同窓で警視庁の衛生部長を務める長谷川が訪れ、「内密の話がある」と。それは、天皇が巡幸の帰りに「千住で休むので、医師として待機してほしい」との要請だった。長谷川の話で、かの偽患者に「待機役の医者を選定するため、医療機関の内偵を命じていた」というのである。
 一方、名倉家に帰って来た謙蔵が父に、「本科生から、別科生は“虫”呼ばわりされている」ことと、「ドイツ留学は無理」であることが伝えられた。その後謙蔵は、別科を卒業して骨つぎ業に専念。その技と人気は先代を凌ぎ、患者は全国から訪れたのでありました。
 
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