●「軍神の血脈ーー楠木正成秘伝」 高田崇史著 講談社 13年版 1400円
特攻隊の生き残り早乙女修吉が、何者かに毒物注射され危篤状態に。孫娘の瑠璃（30歳）は、修吉から「重大な発見をした。この真実を知らさなければ」と聞かされ、「太平記」を読むよう言われてた直後だった。
襲撃現場には、「南木の会」の紋章の名刺が残されていた。「南木の会」とは、終戦直前の特攻隊員の間でつくられていた組織で、楠木正成を軍神と崇める組織だった。こうして、修吉が残したものを頼りに瑠璃は、同級生で歴史作家の山本京一郎と共に、楠木正成の秘密を追求していくのだった。
そこでわかったことは、江戸時代の水戸光圀から始まった「天皇の忠臣」正成が、明治に入り「軍神」に祭り上げられたこと。正成が死んだ「湊川の戦い」は、正成とは思えない稚拙で直情的な戦法で戦われたこと。
正成の首だけを持って（集団自決したから、他の大将首がいくつもあった）尊氏に面接した大森彦七なる人物の姿が矛盾に満ちていること。やがて、湊川（正成の地元）での戦いで正成は死んでいないこと。首を持って尊氏（正成の顔を知っている唯一人）に面接したのは、正成本人だったことが明かされていく。
こうして、正成が後醍醐天皇や南朝のために殉じてはおらず、したがって「正成忠臣説」が根底から崩れ、それを元に打ち立てられた「皇国史観」も崩壊するという訳。この事実に修吉が気づいたのは、正成の子孫である世阿弥の「能」を観たからであった。
そしてこの事実が明るみになると、「南木の会」の根本理念が崩壊することを恐れた人物が、修吉を襲ったことが明らかになる。正成死亡の疑問から、「太平記」の記述の矛盾。全国に散らばっている正成や彦七の遺跡から、次第に真実が明らかになっていく物語でありました。
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