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2021年01月10日11:42

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読書紹介2027●「ネメシスの使者」

●「ネメシスの使者」 中山七里著 文芸春秋 17年版 1700円
 本書は、稀にみる力作。テーマは、死刑制度の存続・撤廃をめぐる論議である。
 死刑が相当と思われていた判決が、無期・長期懲役とされ確定する。これに係わった判事(死刑・懲役と主張が別れる)、検察官(及び検察事務官)、弁護士、被告、被害者家族、加害者家族のその後が、主人公の埼玉県警警部・渡瀬によって追跡されるのだ。それは、殺人現場に「ネメシス」という血文字が残されていたからだった。
 ネメシスとは、ギリシア神話の「義憤」の女神のことだが、一般的には間違って「復讐」の女神と思われていた。捜査本部は当初、この事件を被害者家族の「復讐」として捜査を始める。なぜなら殺されたAが、浦和駅前で無差別に2人の女性(自分より力が弱い20歳と12歳の)を殺したBの母親だったからだ。
 しかし、やがて第2の殺人が起こる。ここにも「ネメシス」の血文字が。こうしてこれが単なる「復讐」ではなく、死刑判決が下されなかった被告(刑務所にいる)に替わって、「義憤」によりその加害者家族を殺す、という「ネメシスの使者」による殺人であることが明らかであったからだ。
 義憤によって懲役囚の家族に「正義の鉄槌」を下す、という正義漢面したヤツは腐るほどいた。とくにネットの世界では溢れかえっていた。つまり、容疑者の数が一気に2桁ほど上がることとなった。
 本書では、刑務所にいる懲役囚の暮らしぶり、懲役囚をどの刑務所に送るかを決める「心理技官」(法務省の職員)の分類マニアルとそのやり方、加害者家族と被害者家族の暮らしぶり、とくに被害者家族の無念の思いの丈が詳しく描かれる。
 さらに、孫を誘拐され殺されていた(判決は懲役刑)判事が、それをキッカケに全ての判決を死刑ではな「懲役刑」にした理由も、最後に明かされていく。また、世論(死刑制度に賛成が8割)におもねって開始した「裁判員制度」が、判決の厳罰化に拍車をかけたこと。しかし、従来のやり方を変えようとしたい上級審が、裁判員制度による判決を覆していたことが紹介されている。
 本書は刑事小説であるが、最後の最後にどんでん返しがあるので、筋を紹介するのが憚れるのでありました。

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