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2020年11月03日11:31

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読書紹介1988●「鶴屋南北の殺人」

●「鶴屋南北の殺人」 芦辺拓著 原書店 20年 1900円
 本書の鶴屋南北とは、4代目で江戸時代の歌舞伎作者(脚本家)のこと。本書は、ロンドンで南北の幻の自筆台帳(脚本)が発見され、検討・分析の結果、本物と証明された。その台帳をもとに、京都のR大学《虚実座》の芸術監督・小佐川(歌舞伎作者)が舞台にかけることに。
 その準備中、R大学生で演出家志望のSが舞台の上に建てた家の屋根から落ち(家ごと崩壊)死亡した。又、南北の台帳をロンドンで発見した国劇協会のAが、大学近くの神社で殺され、死体は紙吹雪で隠されていた。更に、大学の乗っ取りを図っていたB(同大学の理事で、元教部省首席事務官)が、新キャンパス建設現場でクレーンに宙吊りにされているのが発見される。
 ということで、著者の作品のほとんどの主人公である森江春作弁護士兼探偵が、南北の台帳の謎と、現実に起こった殺人事件の犯人を突き止めるというミステリー。
 本書の最大の謎は、南北の台帳が実際には舞台で演じられたようすがないこと。そして演目「銘高忠臣現妖鏡(なもたかきちゅうしんうつしえ)」の内容が、通常は元禄時代の史実を「太平記」時代に移し替えているのを、さらに老中田沼意次時代に移し替えているものだったこと。
 ここに、南北(意次派)の狙いがあった。つまり南北は、若い時に意次派として当時の著名人と交流があったのだが、のちの老中となる松平定信によって意次が謀られ(意次の長男が殿中で斬りつけられ、その後に死亡する事件)、政権を追われたこと。そればかりか、それまでの自由な気風(意次の重商主義と北海道開発)がすべて定信によって押し潰され、多くの犠牲者を出したこと。その恨みを、南北は40年後につくった台帳によって定信に思い知らせよう(つまり、定信だけのために上演した)としたのだ、というもの。
 本書は、あまりにも壮大かつ複雑すぎるきらいがあって、南北の狙いと現実の殺人事件の関わりがあまりよくわからなかったが、面白い物語ではありました。

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