●「風は山河より 第1巻」 宮城谷昌光著 新潮社 06年版 1700円
古代中国の歴史小説ばかり書いていた著者が、日本の歴史小説に挑戦した。それが、本書で、5巻まである。第1巻は、徳川家康の祖父・清康(20代)が、天下に志をたて、三河も地を平定させる。その戦いに馳せ参じたのが、本編の主人公・菅沼新八郎(40代・この後3代までが主人公として描かれる)である。
本書では、三河人の戦い方の愚直さが描かれる。攻められても籠城することなく、必ず打って出て一歩も退かないで前進し突破するというもの。そこには、いかなる策略も作戦も存在しない。そのため、敵の策略も意味がなくなり、力戦のみで勝敗を決してしまうのだ。理よりも情を尊ぶ地域性なのであった。
第1巻では、宗家を継いだ清康には叔父がいて、当初は叔父が宗家を継ぐと思われたが、清康の祖父(存命中)の意向で清康が継いだこと。それに、叔父が不満を抱えていること。また叔父は尾張との交流があり、力戦だけの戦いを「愚か」と思っている事。そのため戦いの最中、叔父が力戦に参加せず、清康の側近が討ち死にするのを傍観する。そのことを清康が皆の面前で怒ったことから、両者の関係は決定的に険悪になる。これが、第1巻の最後の「守山崩れ」という、清康が錯乱した近臣に斬られ死亡する理由になったことまでが描かれる。
第1巻では、新八郎の父、兄、兄の嫡子のこと。新八郎の妻、長女、長男のこと。又、川辺で拾った「四郎」という少年とその素性(足利家の庶流)のこと。新八郎が四郎を猶子とし、自分の子として養うに至ったこと。四郎を巡って、2人の美女が新八郎のもとに集ってくるなど、不思議な縁(えにし)が繰り広げられるのでありました。
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