mixiユーザー(id:2810648)

2020年01月31日12:46

46 view

読書紹介1891●「黄金夜界」

●「黄金夜界」 橋本治著 中央公論新社 19年版 1700円
 読んでいて、人の世の哀しさが身に滲みる本であった。本書は、尾崎紅葉の「金色夜叉」のオマージュで、登場人物名もすべてそのまま。時代が、現在となっている。
 間貫一は両親を亡くし、父の親友・鴨沢の家に引き取られる。鴨沢は高輪でレストランを経営していて、家には貫一より2歳下の美也(1人っ子)がいた。ここで、貫一の祖父(貿易商)の時代からの日本の経済の盛衰が語られていく。
 貫一が高校に入学した年、貫一のベットに美しい美也が忍びこんできた。こうして2人は肉体関係となり、それを知った鴨沢の両親は貫一を美也の許嫁としたのだ。頭のいい貫一は東大に入学し、22歳となった。その頃美也は、お嬢様大学に通いながらモデルの仕事をしていた。
 その美也を見染めたIT長者の富山が、金の力で(鴨沢のレストランは時代遅れとなり、傾いていた)美也に結婚を申し込んだ。モデル業の壁に突き当たっていた美也は、結婚で打開できるのではと、申し入れを受けたのだ。貫一には「大人になりたかったの」と、訳のわからないことを言った。貫一は、それをゆるしてしまったのだ。
 その日から鴨沢の家を飛び出した貫一は、スマホも棄ててしまった。ということで、ここから貫一の「家もない金もない」生活から、浮かび上がっていく絶望的な日々が描かれていくのだ。
 その日の宿泊地と食事を得るため、日当をもらえる仕事探しの日々から、やがて仕事先の雇い主の好意で格安のアパートをみつけ、携帯を揃えたことでアルバイト生活へと移行。ブラック企業に勤めながら、その能力を買われ社長秘書に(東大出を買われ)まで登り詰める。
 最後は、自分の仕事のアイデアを実現すべく起業し、「イケメン店長」としてSNSなどに取り上げられる。それを美也が見て、貫一に会いに行ったことから、事態は思わぬ方向へ・・・。
 現在の青年の置かれている環境、とくに誰の支えもない場合に落とし籠められる過酷な現実と、それがその青年の心に与える疵・・・空虚というものが、どんなに残酷なものであるかが見事に描かれていた小説でありました。橋本治は凄い。

1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2020年01月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031