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2020年01月13日11:24

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読書紹介1885●「ふくわらい」

●「ふくわらい」 西加奈子著 朝日新聞出版 12年版 1500円
 一読して、著者がこんなに面白い本を書くのかと喜んだ本。主人公は、25歳の定(さだ)。出版社の編集者をしている。担当の作家さんに、どんな無理難題をいわれても「もっともです」と全力でサポートする。例えば、「雨が気になって書けない。雨を止めてくれ」といわれれば、会社の屋上の給水塔に上がって「雨止め」の呪法を行うのだ。
 定の母は、23歳で46歳の父と結婚した。それは、母の父が夫となる紀行作家の栄蔵が「子はいらない」といったからである。母は腎臓を患っていたからだ。しかし母は、子を欲しがり定を産んだ。定を溺愛した母は、定が5歳の時に死んだ。それから定は、父と一緒に世界各地を旅した。
 父は破天荒な紀行作家で冒険家だった。各地を巡り、女性器の形の違いを克明に記述したりしていた。雨乞いや雨止めの儀式(呪文を含めて)を定が憶えたのも、この旅行中だった。
 ある日、旅行中の定の面倒をみていた現地の女性が死んだ。その部族のしきたりで、女性は焼かれその肉を食する(実際には口をつけるだけ)儀式に定は参加した。しかし定は、人肉を食べたのだ。
 それを父は紀行文に書いた。日本で出版されたその本は、「児童虐待だ」などと轟々たる批判を浴び、出版停止処分となった。そんな父も、定が15歳の時に定の目の前で鰐に食われて死んだ。定は、父の肉も食べたのだ。
 父の財産は親籍が管理した。18歳で定は独立し、古い屋敷を離れマンション暮らしを始めた。以来、1人で世界中を旅した。自分の身体が「自分のもの」と自覚するため、行く先々で刺青を入れた。それは全身を覆い尽くした。
 定には友達はいなかった。「人肉を食べた子」と、幼いころから周りから敬遠されたからだ。定の趣味は、病弱な母とやっていた「ふくわらい」だった。百数十種類の福笑い(手製のものも)で遊んでいた。人の顔を見るとマジマジと正視して、そこで目、鼻、口、眉毛を動かして弄んでしまうのだった。
 定は、プロレスラーで「守口廃尊の闘病たけなわ」という日記とも妄想とも分からない連載ものを本にするため、守口の担当になった。守口を一目見て、定は大好きになった。それは、鼻が曲がり、左右の目がアンバランスで、口も歪んでいたからだ。福笑いそのものであった。
 ということで、一風変わった作家たちが巻き起こす騒動に、定は真剣に取り組む姿が描かれる。誰にも丁寧語で語る定に、初めて友達(同僚の若い娘)が出来たこと。道に迷っていた盲人(イタリア人との混血)を助け、何度も言い寄られていること。などなど、なんとも面白い本でした。こんな小説が大好きです。

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