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2019年12月17日11:55

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読書紹介1876●「夢見る帝国図書館」

●「夢見る帝国図書館」 中島京子著 文芸春秋 19年版 1850円
 本書は、帝国図書館の歴史と、上野界隈を徘徊していた1人の老婦人・喜和子の物語が交互に描かれてすすんでいく。
 そもそも「図書館が必要だ」と主張したのは、洋行3回の福沢諭吉である。彼は、「図書館を持たなければ西洋列強に伍する国になれない」と主張。明治5年、湯島聖堂に日本初の「書籍館」が発足して約80年。その間、何度か名前を変え、変遷したものの、唯一最大の国立図書館であった上野の図書館は、戦後、国立国会図書館にその役割を譲り、自らはその支部図書館(現在の、国立国会図書館分館・「国際子ども図書館」)となった。
 本書では、この帝国図書館重要人物として、幸田露伴、夏目漱石、樋口一葉、菊池寛、谷崎潤一郎、芥川龍之介、中條百合子(宮本)などなどの物語が、帝国図書館を彩る人物として描かれる。
 さらに喜和子さんを通じて、上野界隈の歴史(戦後のバラック時代などなど)も描かれていて、まことに興味深い読み物となっている。後半、喜和子さんの生い立ちを探っていくなかで、上野という土地が「いつだって、いろんな人を受け入れてきた場所」であることの重みも、しっかりと描かれていたのである。
 帝国図書館がいつも時代に翻弄され(西南戦争、日清戦争、日露戦争、日中戦争等々)、金欠に喘いだ歴史であること。戦中には、香港や中国大陸等から略奪図書を集めた(13万219冊)こと。昭和3年には、「良書委員会」設立の答申を自ら出して、表現の自由を守るべき図書館人の自殺行為を行ったことなど、その「黒歴史」にも触れていて、読み応えある本でした。

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