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2019年11月27日11:39

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読書紹介1871●「風と行く者ーー守り人外伝」

●「風と行く者ーー守り人外伝」 上橋菜穂子著 偕成社 18年版 1000円
 本書のテーマは、弔いと気づきと救いである。36歳になったバルサは、夫のタンダと草市を訪れ、そこで20年前に養父ジグロと護衛を務めたアダン・タラム(風の楽人)たちと再会する。
 風の楽人たちは密かに狙われていて、護衛役のガルマが襲われた際に怪我をしていたが、日程どおり旅に出るので、バルサを護衛に雇いたいというのだ。本書は、20年前16歳だったバルサの、ジグロとの護衛士としての旅のにがい出来事と現在が交叉しながら、すすんでいく。
 風の楽人の頭は19歳のエオナで、母の後を継いで初めての旅だった。風の楽人の頭は流水琴を奏で、異界への道を開く能力をもっていた。ところが、この能力を発揮されては困る勢力がいて、彼らが密かにエオナの命を狙っていた。そこには、20年前と同じ事情が横たわっていたのだ。
 本書の特徴は、護衛士であるバルサとジグロが、襲ってくる盗賊や刺客と命をかけて渡り合う(だからバルサも、幼くして他人の命を奪っていた)ことの哀しみに満ちた事情を、ヒシヒシと伝えていることである。16歳のバルサは、自分が年頃の娘であることなど思ったこともなく、幸せであることを罪であると思うようなーー心の中にある火で、己を焼いているような娘だったのだ。
 とくに本書の場合、風の楽人が100年にわたって戦い続けたA氏族とB氏族の若者たちの合いの子(「楽しみの子」と呼ばれる)によって構成され、戦死者を弔うために歌い踊りながら聖地を巡礼する集団であること。訪れる地は、かって戦があった呪われた地であること。つまり、鎮魂儀礼の旅なのであった。
 本書は、人に対する愛に満ちた本でした。

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