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2017年12月12日18:14

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読書紹介1691・「悲素」

●「悲素」 帚木蓬生著 新潮社 15年版 2000円
 毒物の歴史等、よくこれほど調査したものだと感心させられた本。本書は、犠牲者と被害者の数(90人以上)だけとっても、人類史上最大の人為的な砒素中毒事件である。和歌山カレー事件の鑑定人となった、九州大学の中毒学の医師(教授)を主人公にした小説。
 とくに目を見張ったのは、裁判で無視された被告人・真由美の動機を明らかにしたことだ。それは、誰も知らない秘毒を手にした人間が持つ「万能感」である。この万能感は、神の座に昇りつめた錯覚に陥らせるのだ。
 もともと真由美夫婦の生計基盤は、カレー事件の13年前から保険契約による保険金収入に依存していた。カレー事件の3年前からは、年収1〜2億円に達していた。つまり、食物に砒素を混入させて会社の従業員、マージャン仲間、実父母、夫にまで食べさせ、その死亡保険金や保険金を真由美が受けとる仕組みができあがっていたのだ。
 こうして、保険契約をし保険金を受け取ることが真由美の唯一の仕事となったのだ。そのために毒を盛っていたのだが、やがて毒を盛っているときだけが生きている実感となり、その先のことには思念が及ばない、毒を盛る行為自体が目的化し、カレー事件では保険金が受け取れないにもかかわらず自走し、止められなくなったことを、論理だてて描写しているのであった。
 最後に、この事件を担当した刑事が事件後、被害者地域の交番勤務を希望したこと。毎日、被害者宅を周っていること。退官後もこの地域に住み、ボランティアで被害者住民の行き末を見守っていく決意であることが書かれていた。
 被害者に寄り添う決意をした人が居たことに、わが身を顧みながら、身につまされたのでありました。

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