mixiユーザー(id:2810648)

2017年02月17日13:17

357 view

読書紹介1615・「湖賊の風」

●「湖賊の風」 高橋直樹著 講談社 01年版 2000円
 湖賊と読んで、琵琶湖の水賊及び本願寺門徒、蓮如(1415〜98)と連想した。果たして本書は、応仁の乱(1467〜77)に突入した室町幕府(1392〜1573)が無政府状態におちいった中で、琵琶湖49浦の1つ堅田浦(琵琶湖の交通の要)での争奪戦を描いた小説であった。
 中世とは「自力」の時代であった。しかし、自力には必ず限界がくる。そこに、カリスマ蓮如を「生きた神体」とする本願寺の「他力」の教えが、新興勢力である商工民を捕えた。本書は、この商工民たちが銭の力で堅田浦の実力者にのしあがっていく物語でもあった。
 湖賊とは、本来は琵琶湖の上乗船道衆(武士階級)のことである。船道衆は、琵琶湖の交通に従事する。その上に、琵琶湖を往来する商船に航行権を売りつける。買わない商船は襲われてしまう。船道衆は、琵琶湖を往来する客の中で、金目の多い客とみればこれを襲い、全財産を奪って赤ん坊を除き全員を湖に沈めてしまう。だから湖賊なのだ。
 このように、琵琶湖の往来は船道衆の許可なくしては行うことができない中、「もぐりの上乗」として、風読みの天才・魚鱗(ウロクズ)が現れる。これが本編の主人公。本書では、この魚鱗と船道衆との対決、勃興する本願寺門徒と山門(比叡山延暦寺のことで、平安時代には幕府と2分する公の勢力として君臨)との対決、山門の有力坊院の護正院兼堅田奉行(幕府から任命)と堅田衆(堅田の船道衆、商工民、漁師等)との対決が描かれる。
 この堅田奉行が山門と幕府の権力をかざして堅田の全ての権益、わけても船道衆の湖上権を奪おうとの策略に、堅田衆が団結して行う戦闘が本書のクライマックスとなる。この過程の中で、船道衆の中にまで本願寺門徒が広がっていくのだ。
 本書では描かれていないが、やがて琵琶湖の湖賊は本願寺門徒として、加賀(本願寺が山門に打ち壊され、蓮如が避難していた)の一向一揆へと繋がり、加賀を本願寺門徒の自治による独立国にしていくのである。

1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年02月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728