●「高い窓」レイモンド・チャンドラー著 早川書房 14年版 2000円
マーロウシリーズ第3冊目。原書は、1942年で、アメリカ軍は、ドイツ軍との戦闘に突入した時期である。本書ではこれといったアクションはないが、ミステリーとしてはめずらしく一貫性がある。ただ、これまでの2冊にあった「勢い」とか「乱暴さ」が影をひそめている。そのかわり、個々の人物像の描写には、いわゆる「チャンドラー節」があっておもしろく読んだ。
本書は、稀少なコインをめぐって起こる事件で、依頼人がマーロウに調査を頼んだことに端を発し、次々と殺人事件がおこる。マーロウが出向く所に、既に死体があるという訳。自称「私立探偵」と古銭商、それにある強迫者である。
本書の登場人物で好感が持てる人物といえば、依頼人エリザベスの秘書マールだけであった。あとは、端役で登場する刑事と古いビルのエレベータを操縦する老人くらいであった。なんとこの老人は、共産党のシンパとして登場するのである。
秘書のマールは、エリザベスに虐げられている若い女性である。まるで修道女のように視野狭窄で、自分のつくった物語のなかでその役目を果たそうとする人物。しかし、根はいたって可愛いのであった。その彼女が神経症の発作が出て、マーロウの自宅に来て気絶してしまう。「人を殺してきた」と言うのだ。
じつは、マールが神経症に罹ることとなる過去の事件こそが、本書の事件の始まりの物語なのでありました。
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