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2016年08月11日12:25

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読書紹介1561・「檀林皇后私譜」

●「檀林皇后私譜」 杉本苑子全集10 中央公論社 98年版
 本書も、藤原氏族が権謀術数の限りを尽くしてのし上がっていく物語。描かれた時代は、桓武・平城・嵯峨・淳和・仁明・文徳・清和帝にわたる。檀林皇后こと橘嘉智子は、桓武天皇の次男・神野王子(のちの嵯峨天皇)にその美貌を請われて嫁ぐこととなった。その際、後宮の尚侍を務める姉の安子から「宮中に入るのは、戦士となって戦列に加わることだ」と鼓舞されるのであった。
 もともと橘氏は、藤原不比等の後妻となった橘三千代が始祖である。三千代が不比等との間で産んだ光明子が、聖武天皇の皇后となったのが藤原氏族が政権の中枢に潜り込む端初となった。この三千代の前夫との間の子供たちが橘性を名乗ったことから橘氏族が誕生する。したがって藤原・橘は、固い絆で結ばれていた。もっとも藤原氏族は4家に分れ、互いに排除や蹴落としなど熾烈な戦いをもしていた。
 本書の主流は北家の内麿・冬嗣親子で、嘉智子を宮中に送り込んだことから、彼らの本格的な術数が開始されていく。それは、幽霊(皇太子を廃され獄死した桓武天皇の兄・他戸太子や、その母井上皇后等)と抱き合わせて、流言や噂を効果的にばらまき、政治の流れを思う方向に操るというものだ。
 本書ではこの術数が随所で使われ、冤罪や暗殺によって政敵を放逐する手法が次々に描かれる。こうして藤原北家が、天皇さえも意のままに操り、事実上、日本の帝王となっていく過程が描かれる。本書では、藤原氏族が雌伏の時期を経て、いよいよ飛躍の用意にかかろうとしていた次期を描いている。
 ところで本書では、嘉智子の従兄・橘逸勢が嘉智子の初恋の相手として登場する。逸勢はその後、空海と共に遣唐使船で渡唐し、その後日本に戻ってくるが、官吏になることを拒む変わり者となっていた。そのくせ、空海・嵯峨天皇と並ぶ三筆として名を成し、自由に宮中を出入りして3人揃って遊びを楽しんでいたりするのだ。逸勢は又、橘氏の棟梁でもあったが、完全にその任を放棄してしまった人物でもあった。彼はやがて「承和の変」で冤罪を蒙り、流刑地への輸送中に死ぬこととなる。
 また、嵯峨帝の兄・平城帝の愛人・薬子(藤原式家)に係わる「薬子の乱」がなぜ起こったかも、本書で初めて知った。なんとも、読み応えのある本でした。

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