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2015年08月29日08:50

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読書紹介1440・「残夢の骸ーー満州国演義9」

●「残夢の骸ーー満州国演義9」 船戸与一著 新潮社 15年版 2200円
 シリーズ9で、10年かかった本書の完結となる。船戸は、この本を書き上げて亡くなっている。本書は膨大な資料を読み込み、それを敷島4兄弟のそれぞれの立場から、満州事変から敗戦までの知っておかなければならない出来事を、ものがたった本である。シリーズ9では、敗戦を挟んだ2年間のことが描かれている。
 シリーズ9で感じたことの1つは、著者が「神風特攻隊」について深い怒りをもっていたことである。海軍・陸軍とそれぞれで創設されていく経過と、若い操縦士と飛行機がそれによって消費されたことの愚かさに対してである。更に、陸軍特攻隊を指揮したマニラの第4航空軍の宮永恭次司令官が、特攻隊員250名を死地に飛び立たせる前に「諸君らはすでに神である。諸君らだけに往かせはせん、最後の一戦で本官も特攻する」と言いながら、マニラに米軍部隊が突入したとたん、台湾に向け(煙草やウイスキーを機体にいっぱい詰め込んで)部下を見捨てて敵前逃亡した(軍法会議にもかけられず不問に付せられた)ことを描いていることだ。日本軍の高級官僚の姿というものを、このことを描くことで船戸は告発しているのであった。
 シリーズ9では、まず敷島次郎がインパール作戦中に身体にウジ虫を湧かせながら死んでいる。次いで太郎が、ソ連軍捕虜となりシベリア送りとなった。そこで、人間としての誇りや尊厳をかなぐり捨てたあげくに、首を吊って死んでいる。三郎は、はぐれ日本兵として満州から通化(大連の内陸部方面)まで来て、そこで蒋介石の国民党と中国共産党の対立に巻き込まれた日本人の武装蜂起(謀略で仕掛けられた)に参加し死亡。死に場所を求めていたのだ。四郎は、三郎から託された満州開拓民の少年を連れ、広島の祖父に送り届ける。ということで、本書は完結したのである。
 シリーズ9を読んでいて、読むに耐えない描写に何度も本を閉じてしまった。たぶん著者も、書き続けることが辛かったと思われる。日本の戦後を考えるとき、本書は外してはならない名著になるだろう。著者が、渾身の力を振り絞って書き上げたことが痛感させられる本でありました。

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