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2024年04月23日13:09

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読書紹介2391●「ドゥルガーの島」

●「ドゥルガーの島」 篠田節子著 新潮社 23年版 2200円
 舞台はインドネシアの火山島ネピ。主人公の加茂川(48)は、大手ゼネコンの一級建築士として、インドネシアのジャワ島で発生した地震後の遺跡修復事業に関わってきた。それは4半世紀わたり、日本とインドネシアを行き来しながら働いてきたのだ。その加茂川が、スマトラの西側の海上、インド洋に面したネピ島で、古代インド人が残した王国の海底遺跡を発見したのだ。
 日本に帰った加茂川は、会社を辞め(そのため、20歳下の3番目の妻に逃げられた)、大学の非常勤講師をしながら、この遺跡発掘調査を個人的に始めることに。これには、海洋大学の藤井准教授と同大学の特任教授で文化人類学者の人見(女)が行動を共にすることとなった。
 ネピ島に渡った3人だったが、遺跡は島の西側で、町がある東側とはジャングルで隔てられていて舟でしか行くことができない。町のイスラム教徒の住民は、そこに住む住民のことを「精霊信仰の首狩族」「なにをするかわからない異教徒の野蛮人」と言って、案内を拒否するのだ。
 町で巡り会った西側の住民ケワンに連れられた3人は、そこで数々の発見をする。人見は彼らのなかに入り込み、母系制と父兄性が両立した部族であること。女は巫女に、男は行政を担当していると。1番偉いのは、ケワンの母で巫女の長であった。ケワンの父が町長であった。女たちは、島の火山を神として崇め、常に観察している。彼らの託宣は、政府が発表する地震や津波の予測より正確なものであった。
 藤井は、ネピ島には古代インド人がやって来た(海流が速く、珊瑚礁のため容易に近づけない場所だった)こと。それはシュリヴィジャヤ王国というが、1つの帝国ではなく、いくつもの仏教、ヒンドゥの小国が集まった文化圏に属したものだと。
 この王国は、ネピの丁字(香辛料。金と同量で交換された)を栽培し、インド・ネピ島・中国を結ぶ三角貿易によって栄えていた。しかし何かの理由(地震や津波)で丁字栽培が打撃をうけ、あるいは港が破壊されたことにより、インド商人たちはネピを見捨てることとなった。それから数世紀後に、アラブ商人がやって来て(漂流して)、この地に住み着くこととなった。以来ネピ島は、イスラムの文明を導入し、住民たちは「アラブ人の子孫」を表し、自分たちを「アラブ人」と言うに至っている。
 加茂川たちの発見はインドネシア政府によって認められ、遺跡指定されることに。遠い昔の高い文明の跡、島の歴史を雄弁に語る貴重な文化財、インドネシア国民の宝とされたのだが、そこに火山噴火と地震が勃発。
 政府は全島避難を呼びかける。金持ちはいち早く逃げたが、住民はそうはいかない。そんな混乱のなか、白装束で髭の集団(アラブ人の猿まね)がボランティアと称して島に入り込んできた。当初は住民たちに受け入れられたが、やがて、自分らこそが本家本元のイスラム教徒だとして、この島の精霊信仰や呪術の基盤の上に立脚している、この国の伝統的イスラムを「間違ったイスラム」どとして攻撃しはじめた。
 ケワンの母らと火山の女神に供物を献げ、儀礼を行った市長や議員を「堕落した支配者」として彼らは処刑したのだ。その上、ネピの海底遺跡を「異教遺跡」だとして爆弾で破壊までした。ここに、加茂川の夢が潰えることに。インドネシア国民の宝を、歪んだ思想と狂信の下に破壊していく者がいる。それも災害に乗じてやって来て。
 ケワンの母の託宣が下される。住民は高台に避難しろと。津波がやって来ると。やがて、大津波がネピ島を襲ってきて・・・。加茂川や人見(藤井は学生たちを連れて日本に帰った)たちの運命はいかに・・・。という物語。
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