●「排除ーー潜入捜査2」 今野敏著 実業之日本社文庫 11年 600円
潜入捜査シリーズとは、別名「暴力団狩り」の小説である。テーマは環境問題だが、それにからむ暴力問題に焦点があてられている。マル暴刑事であった佐伯は、過激な暴力団狩りをやっていて、何人もの暴力団員を正当防衛で殺している。そのため、警察組織からは「止めるよう」圧力が加えられていたのだ。ところが、佐伯の出向先の「環境犯罪研究所」では、この圧力がないばかりか、存分に「暴力団狩り」をやれというのだ。
今回の舞台は、マレーシアである。1992年当時、「暴力団対策新法」ができて暴力団は地下に潜った。1つは、株式会社化して「代紋」を降ろしたこと。2つは、海外に流出してマフィア化したこと。
今回は、マレーシアでのレアメタル採掘所の周辺で、住民が白血病に倒れたこと(レアメタルを取り出したあとに、放射能物質が蓄積)から住民訴訟がおこされたこと。そこに日本の暴力団が乗り込み、暴力で訴訟を取り下げさせようとしていること。見せしめのため住民が殺されたり、訴訟の指導者を自動車でひき殺そうとしたりと、暴力の限りがふるわれていたのだ。
本書の中で、「アメリカのマフィアは5千人しかいないといわれます。一方、日本のヤクザは8万8千人もいるのです」「犯罪集団がこれほど社会に容認されている国は他にはないでしょう。そして、ある企業は暴力団に融資し、政治家もこれを都合よく利用してきた」というくだりがあった。
つまり、日本の暴力団は歴史があり、一種の民族問題でもある、というほど根深いものであるのだ。ということで、今回はマレーシアに飛んだ佐伯が、住民と一緒になって暴力団と立ち向かう、という物語でした。
ログインしてコメントを確認・投稿する