●「フォークロアの鍵」 川瀬七緒著 講談社 17年版 1500円
主人公は、大学で民俗学を専攻する千夏。認知症のグループホーム「風の里」で、日々健忘が進む老人たちから「消えない記憶」を聞き取り、そのなかに残るマイナーな伝承を手繰り、学問的に謎を解こうというのである。
本書では、問題行動ばかり起こして、他のグループホームから締め出され「風の里」に辿り着いた6人の老人たちの日常と千夏の奮闘が描かれていくのだ。千夏には特技があった。聞いた話を、3次元キャプチャーで妄想することができ、それを絵にして見せることだ。
互いにいがみ合うばかりで、少しも協調しない老人たちが、千夏の絵を見て吃驚。過去の想い出が膨らむばかりか、絵を通じて互いに協調し始めるのである。ところが、最高齢92歳のルリ子さんだけは、自分の殻に閉じこもり、常に独り言を呟いている。そればかりか、夕暮れになるとホームの脱走を試みる異常行動を繰り返す。
千夏がルリ子さんの言葉に耳を傾けると、切れ切れではあるが「おろんくち」という言葉を聞き取る。ルリ子の実家が山梨だということで、山梨方面で「おろんくち」の意味を知っている人をネットで探す千夏。それに唯1人、反応したのが高・1の大地だった。5歳の時、山梨の祖父母の家で聴いた憶えがある、というのだ。
ホームでは、千夏の3次元キャプチャーの絵が老人たちに評価され、ルリ子さんの呟きの聞き取りを老人たちが引き継いでくれるようになった。やがてルリ子さんが、蚕の選別嬢だったことや、選別に行った村で個人的に恐ろしい目にあったことを老人たちが嗅ぎ付ける。
ということで、千夏と大地は山梨に行って、ルリ子さんの言葉に当てはまる村を探し出すことに。やがてルリ子さんの言葉と異常行動には深い理由があったことが明らかになっていく、という物語。
本書では、グループホームの問題点が、カウンセラーの松山という人物を通じて明らかにされる。老人たちを端から認知症の「訳のわからない人」と決めつけ、プログラム通りの行動を押しつけ、数値化できることしか認めないことや、ホームの職員たちの過酷な実態などであったりする。
なにより1番面白かったのは、6人の老人たちの個性あふれる行動と、その混迷ぶりに振り回される周囲の人々との関係性でありました。
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