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2017年09月30日16:42

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読書紹介1673・「あわいの時代の『論語』」 

●「あわいの時代の『論語』」 安田登著 春秋社 17年版 1800円
 安田版「論語」が好きである。論語は、孔子の言葉をあとの時代に文字にしたものだが、著者はこの文字を「孔子が生きていた時代に存在していた文字」に直してみせてくれる。すると、意味がガゼンと違ったものになり、より深いものになっているのだ。
 さて本書である。本書では、「シンギュラリティ(技術的特異点)」をキーワードにして論じられている。人工知能(AI)がすべての人間の脳の総量の機能を凌駕するという技術的特異点が、2045年に訪れると予測されている。人類は過去に、何度か技術的特異点を経験しているが、直近の技術的特異点が今から3000年(中国)〜5000年(古代メソポタミア)前に訪れた「文字の発見」だったのである。
 文字は脳を外在化(AIのように)した。それは、私たちの脳に余裕が生まれ、そこで「知」という精神活動が生まれた。「知」とは、過去や現在(つまり「時間」という意識による)の知識から、まったく新しい知見を得る精神活動で、それを孔子は「温故知新」という言葉(この「故」という文字は孔子時代にはなかったが)で表現したのだ。
 この文字の発見によって、人類の中に「心」が生まれ、それに伴い「時間」や「論理」なども生まれたのだ。本書は特に中国の例をとって、「心」が生まれたことによるプラス面とマイナス面(副作用)や、「時間」や「論理」が生まれた瞬間を刻印している金文(「大孟鼎」の銘文)をとりあげて解明しているのだ。
 中国で「心」の文字が誕生するのは、殷(前16世紀〜前1023年)から周(前1023〜前255年)に王朝が交代した時である(甲骨文字は前1300年頃に誕生)。「心」は、古代メソポタミアでも中国でも、最初は耳、腹(内臓)、血流、性器、子宮などの文字で表されていた(心が動くと内臓が動くから)。そこからやがて、「心」という文字が誕生するのだ。
 殷の時代には「心」という文字はなかった。従って、「悲」や「悩」という文字も当然なかった(心偏がないから)。「心」は、「時間を知り、未来をコントロールし得る力」を与えたが、その副作用として「悲」や「悩」ーー未来に対する不安や過去に対する後悔という意識を生み出したのだ。
 その意味で、人類は3000年前から「心の時代」ーー心に囚われる時代に突入したとも言えるのだ。本書では、次の技術的特異点において、人類が心の束縛から解放されるだろう、という予見をしているのでありました。

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