●「神坐(かみいま)す山の物語」 浅田次郎著 双葉社 14年版 1500円
奥多摩の山梨県との県境にある「武蔵御嶽山(みたけやま)」の神社群は、日本武尊の東征の頃に創られた。その神社の1つに、新参者として徳川家康の関東入封の露払いを務めた熊野の修験者の末裔が神官を勤めていた。主人公はこの修験者の18代の末裔である。昭和30年代、7歳の頃にこの一族から語り聞いた話が本書の物語である。
主人公の曾祖父も、神官になる前は修験者であった。験力があり、狐憑きを治すことが出来た。曾祖父には女の子しかいなかったため、祖母は八王子から婿を迎えた(婚籍関係はいくつかに決まっていた)。祖父は普通の人であったが、祖母は曾祖父の血を継いだのか人に見えざるモノが見えた。それを祖父は、「勘働きがきく」と表現していた。
祖母は10人近くの子を産んだが男子は2人だけで、長兄は幼い時に亡くなっていた。主人公の母はその末妹で、親族の反対を押し切って東京の人と恋愛結婚をした。母には、祖母みたいな勘働きの能力はなかったが、幼い主人公には「人に見えざるモノ」を見る力があったのだ。
ということで、神の坐す聖山での一族の不思議な体験談が本書で語られていくのである。それにつけても、浅田氏の日本語表現のなんと美しいことか。ますます磨きがかかってきた感がした。その美しい日本語を味わうだけでも、本書を読む価値があると思わされたのでありました。
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