mixiユーザー(id:37214)

2024年04月07日14:38

25 view

わかつきめぐみ「古道具よろず屋日乗」を読む

特集本「わかつきめぐみ 迷宮探訪」に描きおろされた「古道具よろず屋日乗」が、
改めて「花ゆめAi」で5回にわたり連載され、
最終話等の描きおろしを加えて単行本になった。

亡くなった叔父がやっていた古道具屋を現在無職という理由だけで継いた冬耶だが、
叔父を心から尊敬していたらしい女中のトメ(まだ10代)からはキツく当たられ、
日々、トメからののしられながら旦那様修行をしている。

どうやら家に不思議な力があるらしく、
主な仕事は、何かが憑いているワケありの品物を金をもらって預かり、
憑いたモノが離れると(夜中に裏木戸から出て行くらしい)、持ち主に返すというものだ。

「迷宮探訪」版では登場人物が多いワチャワチャしたファンタジックコメディだったが、
この本では出入りの客を(亡くなった叔父と懇意で冬耶の見守る立場の)露萩堂にしぼり、
じっくりと「何かが憑いているモノ」と向き合う静かな物語になっている。

ひょっとすると、憑き物落としが物語の軸になるような、
終わりなき「不思議な物語」になるかと思ったがさにあらず、
どちらかというと、何も考えないままに店を継いだ冬耶が、
トメのキツい言葉と預かったモノの思いもよらぬ反応に対処しながら、
少しずつ旦那様らしくなっていく成長物語になっている。

カギとなるのはたった一人の使用人であるトメのふるまいで、
自分の女中仕事は完璧にこなすし、
(叔父の仕事を側で見ていたせいか)冬耶が叔父のようにできないことにイラ立つし、
どうすべきかわからないでいると、直ちにやるべきことを教えてくれるものの、
「旦那サマの仕事だろ、自分で何とかしろよ」とキッパり言って手伝わないし、
冬耶がグスグズ言うと「言い訳する前にやれよ」とののしる。

なかなかに言葉は厳しいが、的確に指導する良い指導者だ。
また、この「旦那サマ」という物言いもポイントで、
冬耶はトメからは叔父のように「旦那様」と認められておらず、
(違いが微妙すぎるのだが)「旦那サマ」と呼ばれている。

最終話でトメの過去をめぐる謎が解けたものの、別に色恋沙汰になるわけでもなく、
あくまで旦那サマと女中としての信頼関係が強まったところで物語は終わる。

昔ながらの知的で痛快なコメディさばきは健在だし、
そこに人として老成した深みのようなものが加わっていて、
なかなかに良い味わいになっている。

また新作が読みたい、と結ぼうと思ったら、
あとがきで「カラーインクがない」「イラストボードの質も悪くなった」
「トーンもどんどん廃盤になる」「アナログ原稿描きいなくなる」と盛大に愚痴り、
「より先にお払い箱になる日も」「紙の本が出るのもこれが最後かも」と嘆いていた。

そういう時代なのだな。
まあ、本が出る限りついていきますよ。
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2024年04月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930