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2021年08月03日21:49

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「わかつきめぐみ 迷宮探訪」を読む

わかつきめぐみの「ぱふのような本」が出た。
デビュー40周年だそうだ。
ご本人が「いちばんびっくり」だそうだが、読者だってしみじみする長さだ。

あのころ「LaLa」で宝物のように磨かれていった篠有紀子が静かな光を放つようになり、
くぼた尚子、秋本尚美、星崎真紀の三人娘が元気いっぱいに好き勝手をやり、
そんなところに、ひょっこり登場したのがわかつきめぐみだった。
軽妙だが不思議なわかつきワールドは、すぐに人気を得た。
あれから、もう40年たったのだ。

定番のインタビュー19ページに、自作解説付きの作品紹介11ページ、
イラストギャラリーは50ページ中47ページがカラーだ。
さらに、描き下ろし「月は東に日は西に」12ページ、「So What?」12ぺージに続き、
新作「古道具よろず屋日乗」55ページも掲載されている。
なかなか豪華だ。

で、だ。
わかつきめぐみセンセイなのだが、なんというか、かなり変なのだ。
まあ、誰しも自分が生まれ育った時に家になかったものについては、
あまり必要性を感じないというか、買うのをためらうというのはある。
自分らしい暮らし方をするというのも、それはそれで立派なことでもある。

とはいえ、FAX付電話やラジオはあっても、パソコン、クーラー、電子レンジはなく、
テレビもなくしたし、炊飯器が壊れてからは米は鍋で炊いているし、
お友達からはメールの代わりにハガキが届くという生活というと、
これはもう、相当なこだわりのある暮らしだ。
しかも、スライド本棚の大量の本を見ると、こだわり感がなおさら強まる。

原稿についても、昔ながらのケント紙にGペンと丸ペンで描いているし、
ムラなく塗りたいという理由で、ベタにも丸ペンを使っているという。
(なので、「月は東に日は西に」の茗で懲りて、主人公はベタアタマにしないらしい。)
今も、卓袱台の前にペタンと座り足を伸ばした姿勢で描いているというから、
本当に自分のスタイルを変えない人であるらしい。

そんなわかつきめぐみなので、作品紹介に続く自作の(!)「執筆作品リスト」には、
ララまんがスクール等への投稿作、投稿しなかった作品(!)も含め全365作の
タイトル、ページ数、初出のほかに、原稿サイズや執筆期間の年月日まで書かれている。
なお、執筆期間の頭の日付は、当初はネーム以降、途中からは下絵以降の日付だそうだ。

それだけではない。
イラストギャラリーに続いて置かれている自作の(!)「お仕事リスト」には、
予告カットやカラー扉、表紙、単行本用の描き下ろしカットはもとより、
雑誌の近況ページのカットとコメント、各種懸賞品のイラスト原画に加え、
小説などに提供したカバーイラストや挿画、同人誌向けのカットまでが記録されている。
むろん、ぬかりなくサイズも書かれている。

ここまでやってくれるとなると、うかつに「わかつきめぐみが変だ」とか
「こだわりが強い生活だ」などとは言っていられない。
むしろ、綿密で繊細で周到な人ぶりが表れているのだ。

旧シリーズの描き下ろしの2作は、数十年ぶりに描いたということもあって、
わかつきめぐも本人は「誰だこれ」「ますます、誰だこれ」感にさいなまれたらしいが、
なまくらでいい加減な読者には「(たぶん)こんな感じだったよねえ」と素朴に懐かしい。

新ネタの「古道具屋よろず屋日乗」は、訳あって古道具屋を継いだ主人公が、
先代から仕えている若いが辛辣な女中のトメにアレコレ指導されたり、
常連客か遊び仲間かわからない連中とのドタバタの中で巻き起こる不思議な話なのだが、
いささか古風な和物感覚と善人の主人公が周囲に振り回されてウロウロするあたりに、
坂田靖子のコメディを思い起こさせた。

そういえば、デビュー当時のわかつきが金沢在住だったので、
編集部の指示で坂田靖子にネームを学んだという話もインタビューにあった。
イギリス的なダンディズムを感じさせる坂田靖子に対し、
わかつきめぐみは学園ものだったし、
原田知世的な透明感のイメージだったので気づかなかったのだが、
その源には、坂田流のコメディがあったらしい。

一つ異色であり、むしろ面白かったのは、
この本が作家本にありがちなファン目線の編集ではなく、
白泉社から出ていることもあってか担当編集者(売る人)目線のようなところがあり、
仕上がりもソツがなくきっちりとした大人の仕事すぎて、
単行本の販促品を思い起こさせるようなところもあった。

それでも、まるごと立派なわかつきめぐみ本だったし、
わかつきめぐみとはいっしょに年齢を重ねたような勝手な思い込みがあるので、
「ありがとう、楽しかったよ」と言いたくなった。
そして、「あとがき」でのていねいなごあいさつに対しては、
こちらの方こそ、「これからも、お願いいたします」なのだった、ホント。
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