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2021年07月29日13:28

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「プリニウス」第11巻を読む

この巻は、一転、プリニウスの少年時代から始まる。
アルペースの山々のふもとの小さな町・コムムで生まれた少年ガイウスは、
家庭教師の指導のもと、数学もラテン語もグラエキア語もさらりとやってのけるような
優秀な子どもとして育っている。

何にでも興味を持ち、じっくりと観察することが好きなガイウスは、
実は勉強よりも、山に入ってシカやフクロウやヤギを見ている方が好きで、
大人が恐れるクマやオオカミさえも身近に感じていたりする。

この強い好奇心と屈託のない行動力を持った少年時代のプリニウスは、
フェニキアで別れた不思議な少女同様、その風貌も含めヤマザキマリを思い起こさせる。
「とりマリ対談」でも、「プリ子」(と彼らは呼ぶ)が動物たちと親しむ山の描写は、
ヤマザキ自身の「北海道で経験したことを反映させ」たとしている。

後半に登場するのは、ローマで学び始めた青年ガイウスだ。
大量の書物を抱え込んで研究熱心なのはよいのだが、
その方が圧倒的に頭に入るからと、
(奴隷を使わず)自分で書物を書き写さないと気が済まないという不器用さだ。

せっかく上手くいきかけた女性とのデートの約束も、
半人半馬のハチミツ漬けに見入っていて遅れてしまうなど、
ついつい人間関係よりも知の探求の方を優先してしまう。

「とりマリ対談」では、「私より半人半馬の方がいいって事よね」のセリフが、
とり・みきが「すべてのオタク青年の胸に痛く刺さりますよ」と述懐しているが、
そう思うと、柔和だが神経質そうな青年プリニウスの風貌も、
ネット上に流出しているとり・みきに似ているような気がしないでもない。

かくして、生涯独身を貫くことになる青年プリニウスは軍人となり、
郷里での山遊びの経験を活かし、騎馬隊長として山岳戦で軍功をあげることとなる。
博物学者であるとともに軍人としても優秀であったプリニウスの誕生である。

駆け足だがプリニウスの子ども時代から青年時代を描き切り、
残されていた宿題が一気に提出されたような感覚だ。
ネロをめぐる物語が強大な権力者につきものの孤独と醜悪さを伴っていたことから、
いくぶん牧歌的なプリニウスの物語に戻るための緩衝材として、
そっと置かれているようでもある。(寄席でいうモタレやね。)

いよいよ物語は終幕へと向かうらしい。
ネロ亡き後のローマで、プリニウスはいったい何を始めるのだろう。
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