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2015年07月18日10:13

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ファンタジーの中へ(59) 小野不由美「残穢」・・・宅地図にたどる地域社会史

 小野不由美「残穢(ざんえ)」新潮社2012 を読んだ。私はこの著者を知らなかったが、かみさんが図書館から借りてきて、一気に読んだ、とすすめるので読み始めたのだが、私も途中止まらず読み終えた。
 著者はホラー作家で、本書も題名が示しているように、のろいやうらみの穢れが残っていて怪奇現象を引き起こしていること、その原因となった事件を調べる過程が内容になっている。

 物語は、京都に住む著者自身らしいホラー作家のもとへ、編集を仕事にしている久保さんという読者から怪奇現象が起きていることを知らせる電話から始まる。作家は小説のネタにするために、読者には何か不思議なことが起きたら知らせてほしいと依頼していたのである。
 東京近郊の賃貸マンションに引っ越してきた久保さんは、背後に何かを掃く音や気配がしていたのだが、それが正装の和服の帯が床をこすっていること、和服を着た女性は首をつっていることを瞬間的に見たのである。
 久保さんは編集者らしく調査にも慣れていて、不動産屋にこの部屋に何かあったか問い合わせた。しかし、不動産屋はまだ新しいマンションに事件はなかったと断言する。一方、同じマンションや近所に住んで子どもを遊ばせている主婦たちに、誰が部屋に住んでいたかなどの様子を聞いたのだが、驚くべきことに、人の居つかない部屋は一つだけでないこと、おまけに1軒家にも事件や事故が起きているというのである。
 だとすれば、この一画全部の問題なのか? 久保さんは京都の作家と相談しながら調査対象を広げていく。古くから住んでいる老人を紹介してもらうと、ここには戦前から工場と工員用の住宅があり、その回りは畑だったという。戦災で工場は焼けて空き地になっていたが、あのバブルの時土地が買い占められていったが、結局バブルが終わって駐車場となり、その後に今のマンションが立ったのである。
 住宅地図で空き地以降の変遷はたどれたが、それ以前には住宅地図がない。分かる範囲で、久保さんが見たという、和服の正装した女性が住んでいた気配がないのである。
 それでは、工場以前は分かるのか。古い地図を探すと大きな家があったようにみえる。そしてついに、ここに吉兼家という大きな屋敷があったことを確認できた。しかし、そこに住んでいた人たちのことは分からない。もう、誰も知らないのである。
 それなら寺はどうか。これだけの屋敷だから檀家になっている寺があり、そこに墓もあるに違いない。近辺の寺の墓地を探していくうちに吉兼の名前を発見。さっそく、作家と久保さんは住職に面会し、吉兼家のことを聞くことができた。住職は父から聞いたという奇妙な話を覚えていた。なんでも、吉兼家の奥さまが福岡の実家から持ってきた女性を描いた掛図を供養したというのである。その掛図は時々笑うというのである。
 もうこれまでだろう。福岡の実家など分かるまい、とあきらめかけたが、もしやと思って、親しいホラー作家に、福岡の笑う掛図のことを聞いたことがあるかと尋ねてみた。すると驚いたことに、それは有名な話だというではないか。

 ということで錯綜した調査過程や事件や事故の様子をはしょって内容を最速で紹介した。これは、ホラー現象の大元を探るという名目で地域社会の変遷をたどった地域社会史であった。
 人のいるところ悲劇があり、恨みをのんで死んだ人もいる。今を平穏に暮らすためには、その穢れは清められなければならない。それが日本古来の信仰の目的の一つであった。梅原猛いうところの怨霊のたたりであり、それを鎮めるための神社である。日本のホラー小説は梅原説によっているところがあるのに違いない。

 私の棲む土浦にも、何かが見えたり、嫌な感じ、暗くなる感じのあるスポットあるという。それはたいてい刑場跡だというのである。城の脇の警察署も刑場だったと、かみさんが聞いてきた。しかし、そんな城の近くに刑場をつくるか? 切腹ならともかく。
 過去をたどるのは簡単ではない。本書を読めばそれがわかる。

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