しんいちくんは目を覚ましました。まだ、夜のようで部屋の中はうすぼんやりしています。
「おしっこかな」しんいちくんは起き上がって廊下へ出ました。廊下には小さい電気がついています。階段を下りてゆくと、何か音がしますよ。
「カリ・・・カリ・・・カリ・・・」何でしょうか。
「おかあさんの言っていたネズミかな」でも変ですね。おかあさんはミミがいるから大丈夫と言っていたのに。
音はキッチンの方から聞こえてきます。
「ネズミが何かをかじっているんだ」しんいちくんはそっと電気のスイッチを入れました。キッチンが明るくなりました。でも、まだ音がしますよ。
「カリ・・・カリ・・・カリ・・・」
しんいちくんは流し台の中を覗き込みました。音が大きくなりました。
「何だ。これは」
流し台の隅にある野菜くず入れにキャベツの芯が残ったままになっています。そこに、何かいる。
「これは知っているぞ。ナメクジだ」
しんいちくんは図鑑で見たことがあったのです。大好きなカタツムリのとなりに家を持たないナメクジが書いてあったのです。
ナメクジはおかあさんが捨てるのを忘れていたキャベツの芯をかじっているのです。しんいちくんにも明るくなったのにも気づいていないようです。
困りましたね。おかあさんは虫が好きではありません。それどころが大嫌いみたいです。
「そうだ。いいことがある」しんいちくんはキャベツの芯をそっとつまんで、裏の出口をあけて庭の隅におきました。これなら、おかあさんも驚かないでしょう。
それから、しんいちくんは自分の部屋に戻ったのですが、何か変だな、と思いながら眠ってしまいました。
「しーくん。どうしたの」おかあさんが起こしに来ました。いつもは、しんいちくんは早起きなのです。
もう、おとうさんこ出かけていました。
そうだ。わかったぞ。・・・しんいちくんは気がつきました。
「おかあさん。ナメクジには歯があるの」
さあ。おかあさんの動きが止まりましたよ。そして、優しい声でゆっくりとお話します。
「しんいちくん。怖い夢をみたの」
そんなことありませんよね。それに流し台のことは言えないし。
「だったら。朝から気持ちの悪いことを言ってはいけません」
昼過ぎに金魚幼稚園から帰って来たしんいちくんは、カタツムリのある図鑑を開きました。隣にナメクジもありました。
でも、歯があるかどうか。口までくわしく描いてないのです。
うーん。しんいちくんはカタツムリとナメクジを見ながら考え込んでしまいました。だいたい、こんな軟らかそうでぬるぬるした生きものに硬い歯があるのでしょうか。
「そうだったのか」しんいちくんは何か気がつきましたよ。
カタツムリには硬い殻がある。だったら、硬い歯もあるにちがいない。
ナメクジは家をなくしたけれども、カタツムリの友達だし、歯はなくしていなかったのだ。
「そうだ。歯がなければ、生で、硬くて・・・それにおいしくない芯は食べられない」そうです。しんいちくんは歯があっても、煮てあってもキャベツの芯は食べられません。
「そういうことだったのか。ナメクジはぼくより偉い・・・ところもある」
でも、カタツムリほどは好きになれそうにありません。
「ぼくとカタツムリは友達なんだ。カタツムリとナメクジは友達だった」
そうすると、しんいちくんとナメクジは友達の友達ですね。
「友達の友達は、少しだけ好きなんだ」
友達の友達って、そういうことだったのですね。
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