高浜虚子は写生俳句だった。多分、絵画の写生からの発想だろう。そう言えばアンドレ・ジッドの小説家群の「贋金づくり」でも新しい小説を模索するなかで絵画の動向に追随していた。
「遠山に日の当たりたる枯野かな」虚子
１．シュールレアリズム（超現実）
虚子は風景のリアリズム写生だが、これがシュールレアリズム（超現実）になると「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘の偶然の出会いのように美しい」マン・レイ（1890-1976、カメラマン）になる。
この句では、「遠い山」と「日のあたった枯野」という二物対比だが、元々必然の関係にある。
一方、シュールの場合は二物は無関係というより互いに排斥する関係にある。
これが現代俳句になると
皆吉 司
「満月や機械仕掛けの猫が欲し」
朔太郎の「月に吠える」みたいだが機械仕掛けというのが変わっている。というか古代ギリシャの芝居では大団円の場で機械仕掛けの神（デウス エクス マキナ）が登場するので、「古きを訪ね新しきを知る」孔子 ことになるわけだが。
「ビーチパラソルヲピアノノウエニオケ」
こうなるとシュールレアリズムのテーゼそのものである。
大西泰世
「火柱の中に私の駅がある」
激しい人なのだろう。逆に死を思うと、
「わが死後の植物図鑑きっと雨」
園芸が好きだったのだろう。（巷に雨の降るごとく）植物図鑑にも雨が降る。
２．革命俳句、反戦反封建俳句
夏石番矢
「にっぽんかくめいなし（元はフランス語でカナが振ってある）濤の秀（ほ）を打つ霰」
「テンジクネズミも額で崩御を受けとめよ」
日本人大衆がテンジクネズミとされている。そんなことだから野党の左翼政党は政権を取れない。いくら新聞に応援されてもとれない。
金子兜太
「湾曲し火傷し爆心地のマラソン」
長崎とのことだが、元の地形も椀曲しているので、そのまま原爆の惨禍に繋がっている。
「華麗な墓原女陰あらわに村眠り」
浜辺に近い村の墓地。貧しい村だが墓地ばかり立派。で、封建的な村人は政治によって新しい社会を開く気はなくセックスだけに熱心である。多分、子だくさんだったのだろう。
３．フロイト俳句
西川徹郎
「男根担ぎ仏壇峠を越えにけり」
むろん男が立派な仏壇を街で購入して、担いで峠を越える姿。いつの時代かと思うが、確かにあったに違いない。
角川春樹
「向日葵や信長の首斬り落とす」
角川書店創業者の父の源義に対するエディプス・コンプレックスにちがいない。息子の頭の上のリンゴを弓で射る場面の画で、男根を伸ばすテル描いたサルバドール・ダリなら、父の男根を切り落とす画にしたかも？
４．本歌取り・引用俳句
これは沢山ある。もともと本歌取りは和歌の何重にもイメージを重ねるための伝統的手法だった。
�々�田杏子
「かまくらへゆつくりいそぐ虚子忌かな」
虚子の堂々とした印象が「ゆっくり」で、弟子としては師匠に似せてそうあるべきだが、この場合はどうしても心がせくのである。
�⊂綸銚淦蘋�
「太郎に見えて次郎に見えぬ狐火や」
三好達治「太郎を眠らせ太郎の屋根に雪降り積む。次郎を眠らせ・・・」
あるいは、少しひがんだところのある「次郎物語」かもしれない。
「もがり笛風の又三郎やあーい」
これは言うまでもない。
➂平井照俊
「フリードリヒ・ニイチェのごとき雷雨かな」
ニイチェの印象が雷雨
�ぢ覬�狩行
「湖といふ大きな耳に閑古鳥」
盛岡にいた初夏の頃は、毎朝カッコーカッコーの閑古鳥ワルツに起こされた。
「私の耳は貝の殻海の響きを懐かしむ」ジャン・コクトー堀口大学訳
海の響きなら良いのでないか。与謝野晶子も潮の遠鳴りを数えながら眠っていたとのことだし。ヨーロッパでは眠れない時は羊を数えるようだが。
�ネ�馬朗人
「烏瓜もてばモジリアニイの女」
うりざね顔の竹久夢二の黒猫を抱く女「黒船屋」みたいでもある。
�Πど�完市
「淡路島と色彩学とはるかなり」
源兼昌「淡路島かよふ千鳥の鳴く声に いく夜寝覚めぬ須磨の関守」
光源氏も須磨で謹慎だったし、当時はわびしいイメージだったのだろう。「淡」という字も入って、色彩が弱いので。
��林田紀音夫
「雲雀より高きものなく訣れけり」
佐藤春夫「人と別るる一瞬の 思ひつめたる風景は 松の梢のてつぺんに 海一寸に青みたり」
恋人と別れざるを得なくなった時には、相手を見ないように空を見つめる。涙で空が青く見えるのかも？
実際は、谷崎潤一郎は千代子の離縁に承知して、佐藤春夫は結婚できた。一方、大阪に逃れた谷崎は離婚してくれた松子夫人と結婚して「細雪」を書いた。
佐藤も谷崎も松に縁があったわけだ。確かに松は日本のどこにでもあるが。
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