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2023年09月13日10:39

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浮世の謎(164) 作家と主人公の交錯

 主人公は作家の分身であることが多いので、作品論は作家論に繋がらざるを得ない。

 1.二人の作家が幼馴染で、それぞれに自伝的な作品を書いている場合には相互補完的になる。
 トルーマン・カポーテ「遠い声 遠い部屋(other voices,other rooms)」とハーパー・リー「アラバマ物語(to kill a mockingbird)」は、二人の回想に基づく小説で交錯している。ハーパー・リーにはアラバマ物語しかないが。ただしカポーテのノンフィクション・ノベル「冷血」の現地取材には同行している。変人のカポーテだけでは住民たちが気味悪がって話してくれないので。

 ニューヨークへ金持ちの結婚相手を探すために、故郷の田舎町の親戚にカポーテは預けられたのだが、カポーテにとっては見知らぬ街。おまけに、おしゃれな格好をさせられていたので悪童たちの標的になっていじめられたのだが、年下のハーパー・リーが割って入り悪童たちを口を極めて罵倒してカポーテを助けたとのこと。男の子たちはいずれはマッチョになるわけだが、レディー・ファーストが身についていたのだろう。
 ハーパー・リーは弁護士の娘で、自宅ではお嬢様だったが、外へ出ると悪童を圧倒する悪童女だったという2面性があった。
 カポーテ「遠い声 遠い部屋」では、知らない街へやって来た少年に、最初に会って付きまとう天使と悪魔として描かれていた。そして目的の家には不気味な老人が住んでいた。
 この小説は不安な少年の目で見た心理小説というべきだろう。
 事実は、優しいおじいさんおばあさんたちだったのだが。事実に基づく短編小説には「おじいさんの思い出」がある。
 ニューヨークへ金持ちの再婚相手を探しに行った美人の母(美人の家系のようだ)は、目当ての金持ちと結婚したのだが、不安定な心理の持ち主だったようで自死している。その後で書かれたのが「ティファニーで朝食を」だった。映画では個性的な美人だが少しおかしい女性をオードリー・ヘップバーンが演じていた。

 2.母と娘のそれぞれ書いた小説。事実に基づくのでノンフィクション・ノベルと言って良いだろう。
 水村美苗「母の遺産」は、病床の母の看護小説だった。母は自分勝手なところがあって娘の美苗はこぼしながらの看護である。
 彼女の母・水村節子の回想記が「高台にある家」である。彼女の父は大阪の名家出身なのだが年上の芸者と駆け落ちして横浜に住んで節子が生まれた。貧しい自宅から見上げる丘の上に瀟洒な家があり、そこからピアノの音が聞こえてくる。父方の親戚の家で、ピアノを弾いているのは従兄弟のお兄ちゃんだった。
 やがて父と母は離婚し、節子は母に連れられて大阪に行くことになった。豪邸に住む優しいおじさんは、節子の年の離れた兄だった。つまり芸者の母はブルジョアとの間に男の子を生んでいたわけである。

 3.ブロンテ3姉妹と一人の兄弟
 ブロンテ姉妹の父は牧師だった。シャーロットは女子用の全寮制学校に入れられたが、病気になって家に帰ってきた。それで、長女のシャーロットが中心となって3人姉妹でゴシック・ストーリーのような小説を書いていた。
 大人になったシャーロットが出版社に送ったのが「ジェーン・エア」で、これは大成功のベストセラーになった。妹のエミリー「嵐が丘」も出版社に送ったのだが、これは返されてきた。
 「ジェーン・エア」は自伝的要素のある成長小説(教養小説)だが、「嵐が丘」は生と死に引き裂かれた魂が求めあうというゴシックで、当時の地主階級やパブリック・スクール出身者の日常感覚には受け入れられなかったに違いない。今では、評価は逆転している。

 4.尾崎紅葉「金色夜叉」と泉鏡花「婦系図」
 「婦系図」の中心は、早瀬主税が真砂町の先生に反対されて、柳橋の芸者お蔦と泣く泣く別れる名場面だったが「別れるの切れるのって、そんな事は芸者の時に言うものよ」、幸か不幸か真砂町の先生つまり尾崎紅葉(代表作が「金色夜叉」)が早く亡くなって結婚できることになった。
 私は「婦系図」の方は講談のさわりをラジオで聞いただけだったが、鏡花「天守物語」はテレビ・ドラマでみた。不気味な喜劇で印象に残った。

 5.川端康成と三島由紀夫
師匠・康成の主人公は無邪気な「伊豆の踊り子」、踊り子の成長した室町と北山杉の里の  「古都」姉妹、しっかり者の越後湯沢「雪国」の芸者・駒子の系譜で、成長小説に見える。
 一方、弟子の三島由紀夫の場合、自伝的な「仮面の告白」や若い男女の「潮騒」を別として破滅的に見える。
 「仮面」の場合も日本の破滅に向かっていくようなところがあって、ただの「日常」に耐えられないのだろうと思う。だから、自宅もローマ風の非日常に作ったのに違いない。


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