１枚目 ラファエロ「アテネの学堂」 最下段で肘をついているのがヘラクレイトス
２枚目 葦芽 暦生活ブログ
３枚目 富士の青木ヶ原樹海 ウィキから
ニーチェはギリシャ神話と土台にしてギリシャ悲劇の起源を解明した「悲劇の誕生」をもって学者になったわけだが、これは多分、ゲルマン神話をもとにして古代人の心性を解明した「金枝篇」よりも早い。
ニーチェ1844-1900 精神病発症1889年により、学者生活は45歳までだった。
「悲劇の誕生」 1872年
「金枝篇」1890年 ジェームズ・フレイザー1854-1941
しかしながら、ギリシャ悲劇の誕生はもっと単純な要因によると思う。
なぜなら、ハンス・ゲオルク・ヴンダーリヒ「迷宮に死者は住む クレタの秘密と西欧の目覚め」新潮社 によれば、古代ギリシャ人は部族ごとに宮殿や城のような墓地アパートを建設し、遺体を蜂蜜に漬けて甕に保存していた。そして、祭日には故人の英雄的行動と不幸な死を演劇にして（悲しみのコーラスを付けて）供養していたという。ミノス王の迷宮もミノア人の墓地宮殿だと。
私も、40年ぐらい前に読んで、もっともなことだと思っている。
一方、木田元によれば、その後のニーチェはソクラテス・プラトン以前の古代ギリシャ人の思考様式を把握して、ダーウィンの進化論を取り入れながら、人間存在（すべての生命体）は、より強く生きるために進化するという「力への意志」として存在してきたと主張した。
ニーチェが進化論を知ったのは、エルンスト・H・ヘッケル（1834-1919）「ゲーテ、ラマルク、ダーウィンの自然観」1882年
ヘッケルは、個体発生（つまり卵子と精子の結合による胎児の成長）は系統発生（種の進化）を繰り返すとする「反復説」を唱え、種の進化の系統樹を作成した。
このヘッケルは日本でも有名だったらしく、宮沢賢治「青森挽歌」で、ヘッケル博士を引用している。賢治の場合、魂は不死と信じていたので、人はもちろん、動物も含めて、単なる進化論には反対だったようだ。
木田元はソクラテス・プラトンのイデア論より始まる従来の哲学史（形而上学史metaphysics）ではなく、キリスト教学の影響を排除した古代ギリシャ思想から始めるべきとした。重要なのは、古代ギリシャ思想から、直接ニーチェやハイデガーに繋がる部分である。従来は古代ギリシャ思想を幼稚だとして無視していた。
木田元「反哲学史」講談社学術文庫2000年からの要約
本来の存在 派生的存在
�仝殿絅�リシャ思想 自然に成る、生まれる 成った存在、生まれた者
�▲廛薀肇鵝 ．ぅ妊◆ ．ぅ妊△留�
➂キリスト教 人格神 被創造者
�ぅ�ント哲学 物自体（意志） 現象界（認識作用）
�ゥ轡隋璽撻鵐魯Ε┘襦＾媚屬箸靴討寮こΑ ”従櫃箸靴討寮こ�
�θ畄爐涼太検 ．妊�オニュソス的原理 アポロン的原理
�Ц經�のニーチェ 力への意志（進化論） 永劫に生成し続け自己に回帰する
�┘魯ぅ妊�ー 存在 実存（時間的存在、死に向かう存在）
基本的に、�▲廛薀肇鵑�ら�Ε法璽船А嵌畄爐涼太検廚泙任蓮�同じ構図になる。ただし、ショーペンハウエルの「意志としての世界」の「意志」は目的を持たないというペシミズムだった。それに対して、後期のニーチェは、青年時代に師事していたショー-ペンハウエルに反して、ヘラクレイトスなど古代ギリシャの思想と進化論を取り入れて、おのずから生まれ、より強くなる進化を目指す存在だとした。
ハイデガーはニーチェを受けて、人間存在（現存在、実存）は時間的存在とした。
なお、サルトルはハイデガーに学んだのだが、存在を嫌って、自由であるべく呪われている実存（人間）を中心とした。実存哲学小説「嘔吐」では、森に占領されるなどとマクベスみたいなことを言っていたが、来日したときにボーボワールと一緒に富士の樹海を見て感動していたとのこと。
一方、晩年の丸山真男は、ヨーロッパの原理は「作為する」であるのに対して、日本文化の原理を古事記によって「成る」や「生まれる」という自然の働き（おのずからなる）とみているが、その古層の思考様式が日本の現代にまで執拗低音として作用しているとする。
★海風：まとめ
後期のニーチェやハイデガーは、古代ギリシャ人の、存在は自ずから成り、生まれるものとの思想を基にして哲学を展開したのだが、日本の古事記も「万物は葦芽（あしかび）の萌え騰がるがごとく成った」とみていた。これは、古代ギリシャ人の思想と同じはずである。（どうして芽を「かび」と読ませるのか分からないのだが、黴も勝手に増殖するので古事記の時代には黴も芽も同じとして、芽もカビと読ませたのだろうか？）
古代ギリシャ思想によれば、最初に水があったとか、火だったとかいうのだが、要するに、この世の自然や動物、人間を始動させたのは、水による植物の生長なのか、火による熱なのかを論じていたわけである。それを古事記では葦の芽吹きの力だとした。なにしろ、日本は「葦原瑞穂の国」だったわけで、先ず葦原ができ、その続きになる低地の湿地に水田が作られたと言う順だったわけで、葦芽がなければ日本は始まらなかったと考えたのであろう。それが、古代人が子供のころから見ていた風景だったのである。
ゲーテ「ファウスト」では、「ヨハネ伝」の「最初に神の言葉があった。光あれ」というのを、「最初に神の業があった」と訳し直している。つまり、創造神をより行動的に、つまり人間的にしたのである。
ところで、丸山真男の古層説の場合だが、やはりヨーロッパ流の（ゲーテも従っていた）作為説が近代化に良しとしていたので、日本の思想に執拗に残り、影響を与える「成る」、「生まれる」自然観を遅れていると批判していたに違いない。
戦国時代の三好長慶の連歌の一句は、弟戦死の一報を聞いて、
「薄（すすき）にまじる 蘆（あし）の一むら」の前句として「古沼の 浅き方より 野となりて」と付けたとのことだが、生死も含めて存在の変遷は存在自体の本性だと悟ったのだろう。（私は、このエピソードを花田清輝のエッセイで教えられた）
連歌とは、「茶」の静に対して、生々流転の相を感じ取るためのゲームだったに違いない。
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