先週は、フライングで平九郎が死んだと書いてしまい、失礼しました。
少しばかり予習をしたせいで、平九郎が属した振武軍が最後に戦った地であり、
ムーミンと萩尾望都が住まう土地「飯能」の地名に過剰反応してしまいました。
それにしても、平九郎のためにすいぶん時間を取ったものです。
栄一の見立て養子とはいえ、横浜焼き討ち計画のころには見学者扱いだったのに、
川路聖謨の自害より小栗忠順の斬首よりも大きく、
すべての幕府方の無念を代表するように、その一人の戦いぶりを描ききりました。
また、裏で女たちが動かすという見立て通りに、
「母」和宮は慶喜に会おうともせず、「祖母」篤姫は平伏する慶喜を強く諫める一方で、
篤姫は薩摩、和宮は朝廷へと死の覚悟をもって実家に働きかけます。
困惑する西郷が、なんとも良い「悪い顔」です。
そして、腹を召されよの言葉にも従わず、喜作ら血気盛んな家臣たちにものせられず、
どこまでも沈黙を守り謹慎を続ける慶喜の苦しみと負けないくらいに、
帰国早々、水戸藩主として振舞うことを求められる民部公子の苦悩を描いたことも、
これまであまり見たことのない御一新です。
上に日の丸をあしらった彰義隊の隊旗を見ていると、
「いだてん」にも登場した「東京1964」のポスターを思い起こさせますが、
「新選組!」でも描かれた通り、当時の日の丸は国旗であるとともに幕府の軍旗であり、
戊辰戦争とは「錦の御旗」によって「日の丸」が敗れ去る戦いだったのでした。
それにしても、平九郎が秩父の山中に逃れるのではなく、
わざわざ中山道に近づく方へ逃げたのが謎とされているようですが、
お蚕様を見て我に返り血洗島への帰郷を試みたというのは、
脚本家の大森美香が見つけたなかなか美しい解答です。
自刃した平九郎、しれっと帰郷した惇忠、帰郷しても心が痛んだままの長七郎、
蝦夷地に公儀の可能性を求めた喜作、江戸で三井の番頭と商売談議をしている栄一と、
かつては志を一つにした血洗島の若者たちの運命が別れていきます。
というわけで、今回の秀逸は、
今週はしっかり冒頭に登場した家康の盤石さに勝るとも劣らない、
新政府の頼りなさを揺れる立方体で表現する黒子ダンサーズの堅実な仕事ぶりでも、
この期に及んでは、いささか時代のズレを感じざるを得ない
喜作が慶喜に訴えた「薩賊を討って、上様の尊王の志を示す」でも、
なぜか榎本武揚が登場しない中、
実はけっこう発言していたはずの永井尚志や板倉勝静の函館でも薄い存在感でも、
京での一人新選組ぶりに続き、函館でも一番良いところで喜作を救った土方歳三の
お約束通りの洋装・鉄砲というヴァージョンアップぶりの綺麗さでもなく、
栄一の帰国にわき立つ渋沢家にあって、一人哀しみから抜け出せないままでいるていの、
心の奥深いところまで凍り付いてしまったかのような無表情。
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