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2017年08月23日14:23

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時代を越えて（155）　鈴木美勝「日本の戦略外交」ちくま新書2017　・・・自立への長期リアリズム外交

　著者は時事通信政治部出身で、解説委員。　
　本書は「日本の戦略外交」と銘打っているが、新書としては分厚い（４百ページ）の大部分が安倍政権の外交である。しかしながら、吉田、岸両首相の外交方針を継承し、小沢氏の「日本改造計画」や、短命ではあったが橋本、小渕政権の外交をも踏まえているとする。確かに、過去と未来をつなぐ、長期的視野を持っていることが「戦略」の条件であった。本書の評価は、それを実証できているかどうかで決まるのだと思う。

　プロローグ　吉田と岸の戦略的リアリズム
　戦後の日本外交の起点となったのはサンフランシスコ講和条約（平和条約と日米安保条約調印1951年９月）であり、吉田首相の外交は、安全（生存）、日本の平和と繁栄、独立（主権回復）の実現を目指していた。
　吉田は、激化する冷戦を所与として米軍駐留下の半独立状態ではあるが、「軽武装・経済重視」路線を設定した。
　米国（ダレス国務省顧問）は日ソの間の火種（離間させておくために）として、千島列島の範囲や所属の有無をあいまいなまま残しておいた。

　岸信介は吉田の対極に位置付けられているが（岸は東条内閣の商工大臣、吉田は英米派として東条から弾圧）、実際は、戦後日本の力の限界を知り、米ソ冷戦の緩んだ時期を見逃さず、日米安保条約を双務的なものへ（つまり独立に近づけた）と改定した。

　☆海風：吉田政権によって、アメリカ依存の形で（半）独立し、鳩山一郎政権の日ソ共同宣言（56年10月　平和条約は領土交渉の妥結後に先送り）で外交を回復して国連加盟（56年12月）につなげた。その後の岸首相が安保条約を改正して、アメリカ全面依存の片務条約を双務条約にして「独立」を進めたことになる。本書では鳩山政権には触れていない。

　第１章　戦略的猶予期間　冷戦終結後の外交風景
　1992年に第42代大統領になったビル・クリントンの東アジア政策は「経済重視・安保軽視」だった。世界の警察官としての膨大な国防費を削減し、経済運営に力点を置いたのである。
　すでに、80年代に、レーガン大統領と協調していた中曽根内閣は、真の自立による戦後政治の総決算と国際貢献をスローガンに掲げていた。
　湾岸戦争で（ブッシュ（父）大統領の時）資金の貢献だけしかせず（できず）、日米同盟を漂流状態にしてしまったことを危惧していた栗山尚一元駐米大使は、クリントン大統領の訪日にあわせて「価値観外交」策を橋本龍太郎首相に提案した。この時、日米関係の公式文書ではじめて、「共有する価値観」が前面に押し出されたのである。

　日本に求められる変革・米国の圧力に対して日本の新世代が、いち早く提示した一つの回答が、小沢一郎（当時、自民党幹事長）の「日本改造計画」（1993年）だった。原案を書いたのは、御厨貴・東京都立大学教授、飯尾潤・埼玉大学大学院専任講師、伊藤元重・東京大学助教授、竹中平蔵・慶応大学助教授、北岡伸一・立教大学教授が分担執筆し、それを小沢自身が十回以上推敲したという。有名になった「普通の国」がキーワードだった。
　北岡氏は、後に、参加した動機を湾岸戦争で何もできなかったことだと述べた。出版されて大反響があったのだが、すぐに小沢氏と連絡が取れなくなったとのこと。

　そして、小沢氏らの離党で分裂選挙となった93年の衆院選挙で自民党は敗北し、小沢氏は細川護熙元熊本県知事を担いで政権交代を成し遂げた。
　小沢は日本改造計画をもとにして、アメリカ重視政策と国連中心主義を矛盾なく両立させるとした。彼の情勢認識は、米ソが引いた後へ中国が進出するというものであった。

　橋本首相は内閣発足後すぐに、太田沖縄県知事と会談した。知事は、橋本政権は前の村山政権と大差ないと感じたとのこと。橋本首相は日米首脳会談（クリントン大統領）で外務省の反対を押し切って普天間飛行場の返還を要請した。

　次の小渕首相との首脳会談では、クリントン大統領は日米中の三国で共通の価値観を持つべきあるとしたことで、日本の（自由と民主主義の）価値観外交を漂流させることとなった。

　☆海風：短期間で内閣が交代した不安定な時期でも、外交方針（日米の共通の価値観を重視する）が変化することはなかったようである。
　2014年外交青書から韓国を「自由、民主主義、基本的人権などの価値を共有」という表現を削除し、「最も重要な隣国」と表記するにとどめている。この処置は、2013年からの朴槿恵政権による日本糾弾外交を受けたものであろう。産経新聞の加藤記者の起訴も判断材料だったと思われる。文在寅になっても元に戻ることはなさそうである。価値観外交は安倍以前からのものだが、ここまで具体的に表現したのは画期的だったといわねばならない。

　なお、反戦平和のリベラルは、ずっとアメリカの戦争に巻き込まれるとしてきた。それを戦前回帰というのだが、戦前は日英同盟を離れた後は独自の戦争だったし、中国で暴走することにもなった。今の安保条約の下ではアメリカ（中ソの拒否辺があるので国連軍にならないが、ヨーロッパとの同盟軍）の制約の下に置かれる。少なくとも、当てのない暴走にはならない。まあ、絶対平和主義の立場からすれば、違いはないようにみえるのだろう。

　第２章　戦略構想「自由と繁栄の弧」
　９・１１（2001年）テロ事件（当時、ブッシュ（子）大統領）は、超大国アメリカの挫折を象徴的に示した。非国家集団の登場と国民国家への挑戦、巨大国家中国の覇権的台頭と軍事力の外洋化、ＮＡＴＯの東方拡大とロシアの過剰な警戒感、アラブ世界の液状化等々はアメリカのみならず、日本外交にも新たな戦略構想を不可欠なものとした
　麻生太郎外相（200６年第一次安倍内閣の時）は谷内正太郎外務次官に新しい外交戦略の策定を指示した。谷内は兼原信克総合外交政策局総務課長と谷口智彦外務副報道官の助けを得て、「価値の外交」と「自由と繁栄の弧」をキーワードとする日本外交の自画像を作った。
　価値の外交は、民主主義、自由、人権、法の支配そして市場経済という普遍的価値に基づく。
　自由と繁栄の弧はユーラシア大陸の外周に成長してきた新興民主主義国。つまり、ソ連崩壊後に独立した諸国を対象としている。
　ただし、これらの諸国（ポーランド、ハンガリー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カンボジア、ラオス、ベトナム、モンゴル、ウズベキスタン等マッキンダー地政学でいうリムランド）には1990年代から民主化を支援しているが、言葉で明示したことが重要だという。
谷内は、これを中国包囲網と誤解する人がいるが、そうではなく中国にも協力してもらいたいと考えている、という。
　谷内は国際政治学者の若泉敬（1930-96）を師と仰いでいた。若泉は、ニクソン大統領との沖縄返還交渉（1972年）における佐藤首相の密使として、「他策なかりしを信ぜむと欲す（沖縄核密約）」との言葉をのこした。若泉の死は自殺であったとされる。
　谷内の考える日本外交とは、日米同盟を基軸に、加えて独立国家の気概をもって積極外交をすすめることであった。集団的自衛権の行使容認はその延長線上にある。

　☆海風：谷内次官は彼の師であった若泉のリアリズムを継承し、完全な独立国家へ一段階として集団的自衛権行使容認を進めたわけである。

　第３章　地球儀を俯瞰する外交
　日本外交は、冷戦が終結してからも、なおステレオタイプ思考から抜け切れていないと谷内には見えていた。「自由と繁栄の弧」を原形とする安倍晋三首相の「地球儀を俯瞰する外交」「価値観外交」の積極的な展開は、これまでの外交に対する不満から動機づけられたものだ。
　安倍外交の特徴は、①外交地平の拡大、あるいは戦略空間の拡大である。
　②国際的な公共財（グローバル・コモンズ）の保全者として日本の旗を揚げる。
　③ランドスケープだけでなく、シースケープ、スカイスケープの立体的戦略空間をアメリカなど他の保全者と連携して保全すること。

　アベノミクス外交の展開
　安倍は、デフレ脱却を図るため、「三本の矢」（大胆な金融緩和、機動的な財政出動、民間投資を喚起する経済成長戦略）を内容とするアベノミクスを起動した。
その助言役は、本田悦朗（財務省出身だが一匹狼、スイス大使）と浜田宏一エール大学名誉教授だった。
　成長戦略として、ジャパン・ブランドのトップセールスを積極的に行っている。
　さらに、東京にオリンピックを誘致するために、かなり踏み込んだ発言をしている。競争相手としてトルコが有力とみられていた（外務省）が、国際オリンピック総会にも出席して、福島原発事故の安全宣言を行い、トルコのエルドアン首相とは互いに勝った方を祝福しましょうと約束した。
　外交的には、中国を包囲する四か国（トルコ、ロシア、インド、モンゴル）との連携を強め、中国が先行していたアフリカ諸国で自由と法の支配、市場経済を重んじる価値観外交を展開している。

　☆海風：福島原発事故の安全宣言は、当時、まだ確実性がないと新聞などでは批判的だったが、今では、完全に騒ぎは収まっているし、その後の選挙では争点にならなかった。
　安倍外交の推進のためには、経済成長が不可欠であるといえる。それは中国の海洋進出や真珠の首飾り戦略のために、経済の高度成長（６－７％以上必要とされる）が不可欠なのと同様であろう。いったい、中国の経済が行き詰っているのか、好調を取り戻したのか、本当のところは分からない。日本の外交戦略にとっては、不安定な環境に違いない。

　第４章　海洋戦略「安保ダイヤモンド構想」
　安倍戦略外交は積極的な海洋膨張策に踏み切った中国を睨んだものである。民主党政権下の2010年９月に尖閣諸島沖で中国漁船の衝突事件、12年７月にメドベージェフ首相が国後島を訪問、８月には韓国の李明博大統領が竹島に上陸し、９月には日本が尖閣諸島の国有化を決定し、その後中国艦船の領海侵犯が常態化した。また南シナ海では国際法を無視して中国の領海宣言を行っている。
　第一次内閣の時（2006,6-7月）安倍首相はインドを訪問し、インド国会の演説で太平洋とインド洋は自由と繁栄の海としてダイナミックに結合すべきとする演説を行っている（インドには二つ川が交わるところを聖地とする理念があった。）。

　さらに、インド国会演説後の５年後に安倍は「二つの海の交わり」の発展型としての「開かれた海の恵みー日本外交の新たな５原則」が公表された。ただ、もっと安保戦略色の強い「アジアの民主的安全保障ダイヤモンド」が第二次安倍内閣発足直後に公表されている。これは、日米豪印四か国で中国を狙い撃ちしたものだったが、対中関係を懸念した安倍周辺が、タカ派的体質をイメージされることを懸念して抑えにかかったのである。
　この論文の執筆者は谷口智彦で、安倍がまだ野党党首で衆院解散と安倍政権が想定されていない時期だった。

　日本海洋戦略新五原則は
　①二つの海（インド洋と太平洋）が結び合うこの地（インドネシア）において、思想、表現、言論の自由の人類の普遍的価値が十分に栄えなければならない。
　②最も大切なコモンズである海は、力でなく、法とルールの支配するところでなければならない。
　③日本外交は、自由でオープンな、互いに結び合った経済を求めねばならない。
　④日本とインドネシアのあいだの文化的つながりが一層充実するように努めたい。
　⑤未来を担う世代の交流を促す。
　これは、1977年の福田赳夫首相による福田ドクトリン（軍事大国にならず、アセアン諸国と心の触れ合う対等なパートナーになる）を踏まえたものである。

　胡錦涛政権で徐々に始まった海洋膨張政策は、習近平政権（2012年11月から）下で前面に押し出された。その「一帯一路」政策は、中国の中国による中国のための海洋政策といっても過言ではないだろう。
　アメリカはインド洋に常時寄港可能な基地を保持していないが、中国は「真珠の首飾り」政策として、中東から南シナ海にかけて海軍基地を建設しようとしている。
一方、インドは伝統的な「非同盟」政策を堅持して、アメリカとは緊密な関係を築くが同盟することはないとする。一方では、中国を「潜在敵国」と位置づけた。そして、日本との関係を緊密化すればするほど、日本の同盟国である米国との関係が緊密化し中国を抑止することを期待しているのである。

　☆海風：日本にとっては、アメリカとの同盟の先にインドとの密接な連携が重要なのだと思う。むろんアセアン諸国も重要だが、まずインド経済が中進国から離陸するはずだから。インドはパキスタンと（宗教的対立の結果、分裂して独立）対立関係にあるが、そのパキスタンは中国と同盟関係にある。

　第５章　外交と安全保障と靖国参拝
　安倍首相の外交戦略の指南役は岡崎冬彦（元駐タイ大使）だったが2014年10月に他界した。現在は、谷内正太郎国家安全保障局長である。
　谷内は首相就任に当たって「総理が本当にやりたい憲法改正と集団的安全保障の行使容認のためには、中国を利することになる靖国参拝を控えてください」と進言した。
　もう一人は、宮家邦彦（外務省ＯＢで、安倍晋太郎外相の秘書官だった）キャノン・グローバル戦略研究所研究主幹である。宮家は、ニクソン大統領がソ連の攻勢を止めるために、国内の反対を押し切って共産中国との国交正常化に踏み切ったリアリズムを安倍晋三に期待したのである。
　事実、第一次政権の時のスローガン「戦後レジームの脱却」は公然とは口にしなくなった。第二次以降の安倍は、右派ナショナリストのイメージを薄れさせ、幅のある政治的テクニックとマスコミ対応術を体得している。
　海洋進出を本格化させた中国と向き合うためには、アメリカとの対峙をも意味する「（事実上アメリカの作った）戦後レジームの脱却」路線は禁句となったのである。

　2013年春、麻生副総理兼財務相が靖国神社に参拝した。安倍首相は真榊奉納だけだったが、４月に読売新聞社のインタビューで、憲法96条の改正要件（三分の二）の改正を優先すること、そのために夏の参院選で改憲勢力で三分の二以上を取りたいと述べた。
　これに野党は反発し、国内世論の空気が一気に変わりかけた。飯島勲内閣官房参与（小泉首相秘書官）は、世論は２か月でがらりと変わると、強い危機感を示した。
　さらに、米国（オバマ政権）は麻生の靖国参拝を、中国、韓国との間に余計な軋轢を作ったとして強い不快感を示した。
　この時の騒動は菅官房長官や今井首席秘書官による危機管理によって大事には至らなかった。しかし、一方で、ネット右翼からは戦後レジームからの脱却の先送りを許さない圧力がかかっていたのである。

　日米安保関係閣僚会議に来日したケリー国務長官、ヘーゲル国防長官は千鳥ヶ淵墓苑に訪問して、安倍首相の靖国参拝を牽制していた。これに、急進的保守層が反発した。代表格の桜井は、今秋（2013年）こそ靖国に参拝すべき、中国や韓国に同調することは、むしろ米国に負の効果を及ぼすと強く警告した。しかし、安倍はその年の春、夏の終戦記念日にも参拝を見送っていた。
　こうした中、2013年11月、中国は突然南シナ海に防空識別圏を設定した。一方、安倍首相は12月末に念願の公式参拝を果たした。オバマ政権は、異例の強い失望の声明を発表した。
　アメリカとの膠着状態の打開に動いたのは、斉木外務事務次官とキャロライン・ケネディ駐日大使による連係プレーだった。ケネディ家のブランドはなお強力だったのである。靖国参拝に一定の理解を示した彼女は、東京を（ケネディ詣に）訪れるパワーエリートたちに、安倍のリアリストとしての側面を説得していた。

　2014年４月、東京での日米首脳会談で安倍は集団的自衛権の行使容認に踏み切ること、同時にアメリカには（それまで明示しなかった）尖閣諸島への安保条約適用を要請した。

　☆海風：アメリカが靖国神社に神経質になるのは、中国と韓国が強く抗議し、多分、日本に影響力を行使するように求めるからに違いない。今、アメリカが中国に北朝鮮へ影響力を行使せよと求めているように。
　靖国をめぐる混乱は、日本がなおアメリカから独立していないことの証拠であろう。
アメリカ自体にも、首相の靖国参拝をもって、東京裁判の判決を見直そうとする「歴史修正主義」とみる勢力がいるのかもしれない。

　なお、だからと言って対米配慮を優先しているとはならないようだ。何かで読んでいたはずだが忘れたのでネットを探すと、「2016年６月週刊文春　山口敬之」を引用した天木直人によると、斉木事務次官は北方領土での共同開発をてことして日露交渉を急ぐ安倍首相に反対して更迭され、後のポストも用意されなかったという。次官は、日露（つまりプーチン大統領）接近を警戒するアメリカに配慮すべきと進言したことで安倍首相の逆鱗に触れ、更迭されたという。
　ここでの安倍は米露二国を平等に扱っているのであろう。韓国を共通の価値を持つ国ではないと判定したのと同じ強い姿勢が感じられる。

　第６章　アメリカの歴史認識と日本外交
　主張する政治家として対外発信に力点を置く安倍首相
　歴史認識の問題でこじれた対米和解プロセスの第一幕はオバマ大統領のアジア歴訪（2014年4月―５月）であった。ここで、オバマは尖閣への安保条約の適用を漠然とではあるが保障した。一方、日本側は７月に憲法解釈の変更によって集団的自衛権を容認することを閣議決定し、新たな安保法制整備の作業に着手した。
　15年４月、国賓待遇でアメリカに招待された安倍は、それまでのオバマ流のビジネスライクと打って変わった親密な歓迎を受けた。
　前回２年前の訪米では、山田印パター工房製パター（豪州のライン・ギブソンが米ゴルフツアーで、史上最少スコアをマークして全米で有名になったもの）を贈呈したにもかかわらず、オバマの方はそれに気が付かず愛想のない一言の礼だけだった。
　今回の厚遇には、南シナ海や東シナ海への中国の攻撃的な海洋進出などにみられる戦略環境が一変していたのである。ここで、日本の地政学的位置が国防総省のみならず、パワーエリート全体に広がっていたのである。
　中国が提起した海と陸のシルクロード（一帯一路）構想、そしてアジア・インフラ銀行（ＡＩＩＢ）構想は、超大国アメリカに挑戦する戦略とみられ、新型冷戦といってもよかった。日本側は、環太平洋経済連携協定（ＴＰＰ）について、地域の平和と安定の促進を含む長期戦略として推進することを再確認した。

　ところが、１か月とたたない６月の憲法審査会で自民党推薦の長谷部恭男早大教授まで、集団的自衛権の行使は憲法違反と証言し、オバマとの安保法制整備の約束は暗礁に乗り上げてしまった。自民党は、過去最長の国会延長によって、法案の可決をソフトランディングさせる道を選んだのである。

　戦後70年の節目となる2015年に、「戦後70年首相談話」が公表された。その特徴は、　①それまでの歴史を客観的に描いたことである。西洋諸国の植民地支配に対する危機感が日本の近代化の原動力であったことを述べうえで、日本が当時の国際社会が築こうとしていた国際秩序への挑戦者になってしまったとした。日本の侵略は満州事変以後であるとして、マスコミの注目していた四つのキーワード「侵略」「植民地支配」「心からのお詫び」「痛切な反省」が、歴代内閣を踏襲して明記されていた。
　②中国の反応を意識していたが、謝罪外交を脱却しようとしていることである。戦後の日本は、国際秩序への挑戦者になった過去を忘れずに、自由、民主主義、人権といった基本的価値を、共有する国々と手を携え、「積極的平和主義」の旗をあげて世界の平和と繁栄に寄与し、さらに、これまで以上の貢献をすると述べた。

　☆海風：独立交渉からはじまった吉田外交、その後を受けた岸首相による東南アジア諸国への賠償交渉とそれを梃とした経済進出はすでにアメリカの先を行っていたに違いない。佐藤首相はニクソン大統領と沖縄返還交渉をする際に、繊維製品の対米輸出を控えるように要求されていて、それを了承してくれたと思ったらしいが、一向に輸出はやまず、ニクソンは裏切りだと激怒したとのことである。
　その後の田中首相は繊維業界に大規模な補償をして、織機を廃棄させアメリカに協調した。しかし、中国との国交回復問題では、アメリカの先を行くようなことをして（キッシンジャーによる地ならしでニクソンの電撃訪中があったのだが）、その後田中首相が追い越したのか、これがロッキード疑惑における田中おろしの原因だったと、田中は思っていたようである。
　ということで、アメリカとは対立と融和を重ねながら、今、価値観外交と積極的平和主義の安倍外交の時代になったわけである。この「積極的」の中には、場合によってはアメリカにも遠慮はしないという意味を含んでいるのだと思う。徐々に、その姿勢が顕わになってきたのであろう。

　第７章　中韓の歴史認識と日本外交
　第８章　戦略的リアリズムの真贋―　対露外交
　第９章　戦後日本外交の課題と超克の苦悩―　オバマからトランプへ
　エピローグ　戦略的リアリズムと時間の支配・・・以上は省略

　☆海風：まとめ
　戦後日本の戦略外交とは何だったのか。
　私の理解では、自由と民主主義の範囲において、対米自立を成し遂げること。
ロシアとの領土交渉においては、沿海州、千島列島の地域開発を絡めながら妥協を図るというものであろう。一方、ウクライナ問題があるので欧米は日露の交渉を黙って見過ごさないであろう。
　中国は、南シナ海を支配下におき、インド洋には真珠の首飾りのように軍港を配置して、日本と中近東間のシーレーンを断とうとしているわけであるが、日本は逆に中国周辺諸国との経済外交で中国を封鎖しようとしているところである。ヨーロッパは中国とは経済優先で協調的であり、中国はそれを梃として日欧の間を分断しようとするのだろう。
ただ、ヨーロッパ諸国の弱みは中国が人権無視の独裁国だということにあると思う。

　先のことは分からないし、トランプ・アメリカも安定しするのかどうかだが、いずれにしろ、これまでの外交を振り返れば、決して「アメポチ」だとか、「永久敗戦」などという状況ではなかったことが理解される。

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