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2016年06月29日11:38

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時代を越えて(93) エマニュエル・トッド「ポピュリズムという悪夢」

 昨日(2016.6.28)読売新聞朝刊に、エマニュエル・トッド氏のインタビュー記事「ポピュリズムという悪夢」が掲載されていた。フランスの歴史人口学者とのことで、書店で著書もみているが読んだことはなかった。

 「離脱支持は階層的には低所得者層が多く、年齢的には高齢者に多い。・・・高齢者が英国の将来を指示したわけだ。」
 「EUは解体に向かうと私は見る。・・・ユーロ圏の経済は破綻している。加盟国は対等でない。・・・政策を決めるのはドイツだから。」
 ☆海風:この見方は、前回紹介した北大の遠藤教授と同じである。かなり一般的になっているのだろうか。それにしては、フランスやドイツの指導者たちは強気なのだが。それとも強気を見せないとバラバラになるからという危機感がそうさせているのか。
 しかし、その恐れがあるなら、もっと柔軟な運営ができるような機構改革を議論すべきなのでなかろうか。ドイツの方が融和的だとされているから何か考えがあるのかもしれないが。

 「だが、私の関心は、英国のEU離脱と米国のトランプ現象、つまりポピュリズム(大衆迎合)が英米で同時に進行していることにある。トランプ氏の支持者の核は学歴の低い白人、英国で離脱の支持層の核も低学歴者だ。」
 「英米は共にアングロサクソンの国であり、真の民主国家だ。サッチャー英首相とレーガン米大統領のもとで主に1980年代に新自由主義革命を進め、歴史を動かした。・・・ポピュリズムの台頭は新自由主義の帰結ではなかろうか。新自由主義は突き詰めれば、国はない。あるのは個人だけ、という考えだ。」
 「だが、英米で社会の分断・解体が進行し、低所得層にしわ寄せが来て、中流層にも及び、社会は不安定になった。・・・資本・商品・人が自由に移動する開かれた世界、という新自由主義の夢は悪夢に変わりつつある。」
 ☆海風:つまり、トッド氏の関心は、直接にEU問題ではなく、新自由主義の進行によって、本来、社会が持つべき安寧が失われたことに対する反発であり、伝統的な社会秩序を取り戻してくれると称する指導者(ポピュリスト)へ急激に支持が集まることへの危惧にあるらしい。

 「・・・英米への移民の流入は住民が不安に思うレベルに及んでいるのも事実だ。生活圏の安寧は人々の権利だ。移動の自由を柱とするグローバル化を妄信し、生活圏の安寧に配慮しない支配層の無責任が人々の不安を招いている。」
 「ところが支配層には、国民のために尽くしている、との信仰に似た思い込みがある。・・・
大衆は怒り、ポピュリストがその代弁者を任じ、支配層を糾弾する。」
 ☆海風:どうも、欧米の政治家と政権の指示で動く官僚機構は、民衆の意向をくまなくても存在できるらしい。しかし、民衆に不満のマグマが蓄積されると、従来の支配層は煽動政治家(ポピュリスト)によって吹き飛ばされてしまうらしいのである。
 少しずつでもガス抜きしてゆく政策の調整が無いのだろうか。

 「フランスは18世紀の革命で国王・貴族を斬首した。だが、貴族政治の伝統は残り、上・中流階級の支配が利いている。(だから、極右・ポピュリストのマリーヌ・ルペン氏は大統領になる可能性はない)、一方、米国は貴族のいない国で、はるかに自由だ。・・・英米で中流層の暮らしは難しくなっている。疲弊し超個人主義に耐えられなくなっている(だからトランプ氏が大統領になる可能性がある)。」
 ☆海風:フランスは大革命の後でも貴族的エリートによる政治が続いていて、アメリカよりも煽動政治家への耐性があるという。
 その点では、フランスよりもイギリスの方が一層貴族的だと思えるのだが? ジョンソン氏はルペン党首ほど煽動的ではない、ということだろうか。

 ということで終わるが、私の気になったのは、全体に流れているエリート臭である。
 低所得層や低学歴層が、エリートたち献身的努力による、平和と繁栄のための構築物を台無しにしようとしている? 
 煽動政治家の野心の踏み台にされて、どこに連れて行かれるのかも分からないのに。
 それでもフランスには貴族的指導層が健在なのでルペンの出る幕はない。アメリカの方が危ない。
 ・・・やはり欧米は階級社会であり、上流と下層とは別世界に違いない。
話がずれるが、昔アダム・スミスの国富論を読んでいて、「未熟練労働者」の用語に戸惑っていたことを思い出す。誰だって、就職した時は未熟練だった丁稚どんも、だんだん熟練して番頭さんになるのでないのか?・・・と思いこんでいたのである。そうではなかった。誰でもいつでもできて取り換え可能な単純労働に従事する者という意味だった。今の日本では、マニュアル化されて、その日からでも一人前のファストフードの店員というところか。

 欧米や外国資本の企業経営者の場合、日産のゴ―ン社長のように何十億円という給料を当然とする、という文化なので、格差是正などは夢物語なのかもしれない。
 欧米と比べて格差の少ない日本の場合、ポピュリスト生まれる土壌はないといえる。
 低学歴といっても一流大学と二流以下高卒で分けざるを得ず、どこで線引きするのか? 一流と二流をどの指標で分けるのか、トッド氏のように「低学歴層」はどうだとか自信を持って言えないであろう。それに大量のアンケートで大学名まで記入してくれるだろうか。

 ところで、「極右」という分類名だが、昨日見た論考では、それは貶めた言い方になるので自分は「ニューライト」と呼ぶとする政治学者(名前も大学名も忘れたので探せない)をみた。賛成である。トッド氏もおかしい。差別用語と思わないのだろうか。慣れと言うのは恐ろしい。

 EUについては、一致点を見つけるように調整したらどうかと思うのだが。今の、フランスの(前回のアタリ氏もそうだったが)、昔のクレマンソーのように攻撃的だと手痛いことになる・・・ことを学んだはずだが。今度はイギリスだから恐くないと、舐めているのじゃないと思いたい。


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