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2016年06月25日13:49

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時代を越えて(92) イギリスのEC離脱問題

 昨日(6月24日)の国民投票でイギリスはECから離脱することになった。現実になるのは、2年間の期限で条約を改定する複雑な交渉があるらしいので、まだ先の話だが。 

 新聞やネットの論調を見ていると、ECのメリットは域内に関税障壁がないことで、域外国と有利な競争ができること、外国の企業を誘致できること(日本から多くの企業が行っているとのこと)などである。
 域内での移動や就業が自由なので、企業には有利なのだがイギリスの労働者にとっては、安い労働力と競争しなければならないことがデメリットである。
 さらには、イスラム教徒だけだろうが移民労働者との間での文化摩擦の問題もある。

 6月21日の読売新聞には、フランス人の経済学者で欧州統合を推進してきたというジャック・アタリ氏のインタビュー記事があった。そこでのアタリ氏の口ぶりは、脅迫と言っていいようなものだった。大きな文字で、「離脱なら容赦しない」、「英の自殺行為」で「確実に衰頽」すると言う。
 反面、危機感もあって、「国際連盟解体時に似る」と弱気になり、イギリスは「世界にポピュリズムの波」を起こす「悪しき前例」になると非難している。
 アメリカではトランプ大統領が実現するだろうし、ロシアに対する防衛問題も難しくなる、という。

 欧州政治を専門とする遠藤乾北大教授は、「統合の終焉――EUの実像と論理」岩波書店2013 の著者とのことだが、IRONNAの記事(投票前)で、「危機のなかにいるEUは、単一通貨ユーロであれ、人の自由移動をつかさどるシェンゲン体制であれ、それらの機能不全に対して、集権化(つまり統合)の必要に迫られてもいる。」が、離脱に対して強硬なフランスと。融和的なドイツの対立でまとまらないだろうと見る。
「すでに、フランス国民戦線のマリーン・ル・ペン党首は、フランスにおいても同様の国民投票を実施すべきと主張している。スウェーデン国民の多数派も、イギリス離脱の場合には自身が離脱することを望んでいる。」など結束が揺らいでいる。
 
 投票後の6月25日読売の朝刊では、竹森俊平慶大教授が、「2008年のリーマン・ショック以降、世界経済が変調し、人々の間に反グローバルのポピュリズム(大衆迎合主義)が蔓延しつつある。・・・EUなどの超国家組織と決別し(エコノミストなど専門家の制止を振り切って)、(前ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏の言うように)「自分たちの国が主権を取り戻せば、昔の健全な社会に戻れる」というほど現実は甘くない。」と警鐘を鳴らしている。

 という状態で、さっそく株は1万5千円を割ってしまった。本当にリーマン・ショック級だとのこと。対岸の火事ではなくなった。
 なぜこうなったのか。EU推進派(つまり現在の権力者)の政治家・指導者たちが、移民・難民の流入が、労働者や一般大衆の生活に及ぼしている影響に真剣に向き合ってこなかったからではないのか。現に、アタリ氏や竹森教授は、EU反対派は大衆迎合主義だと言う。しかし、良いも悪いも、大衆に迎合するのが民主主義である。悪いとしたら、財政などの辻褄が合って無くて、すぐに挫折する政策であろう。むろん、少数派の弱者も守らなければならない。セイフティー・ネットがなければ心理的に不安定になり、社会が動揺する。
 それにしても、フランス国民戦線(マリー・ルペン党首)をなぜ、「極右」というのだろうか。この言い方は、中道より右という単なる政治的位置を示す内容を越えて、すでに蔑称に(敵対語)になっているのでなかろうか。「大衆迎合主義」も同じ性格づけになりそうな気がする。トランプ候補の場合は「大衆迎合主義」といっても、まだ「極右」とは言わないが、・・・しかし、ルペン党首とあまり違わないのでなかろうか。

 欧州統合の理想はよいとして、大衆の現実の生活へのすり合わせができていないのである。かってのソ連が、社会主義的人間像をかかげて、それに合わない人々を抑圧したように、欧州統合主義的人間像でないものを無視すれば、あるいは無視されたと感じれば、国民主権が発動することになる。
 ヨーロッパのように、キリスト教を精神的支柱とする文化を共通にしていながら、それでも、経済的格差が大きいと社会的融和が難しい。スタインベック「怒りの葡萄」も、大恐慌で失業したオクラホマ州などの農民が、豊かなカリフォルニア州に職を求めて大量に移住したことで引き起こされた社会的対立や混乱をテーマとしていた。
 EU官僚は、忘れられたスタインベックを、カリフォルニアが悪いと前提せずに読んでもらいたいものである。
 まして、宗教が違えば・・・次は、フランスの番だろう。



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