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2016年06月09日18:16

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時代を越えて(90) 「ナショナリズムの衝突は回避できるのか」文芸春秋special2014夏

 このテーマでいくつかの意見が集めてあるが、その中から、網羅的でまとまっている韓国側の主張を整理し、次に、反論として日本側の意見をとりあげる。最後に、取り上げた資本主義とナショナリズムの切っても切れない意外な関係が新鮮だった。

 1.趙世暎「韓国人が本当に思っていること」
 趙世暎(チョ セヨン)氏は1961年生の韓国人で、元外交通商部東北アジア局長

 「・・・互いによく似ているようで、実際は相当違う文化や民族的特質を持っている日韓・・・ここでは日本の方々が誤解しやすいいくつかの点について韓国の「思考回路」を説明したいと思う。」

 (1)「まずは、本音と建前の区別が無用になったことである。・・・韓国民は相変わらず日本との友好協力が重要だと思っているが、歴史問題や慰安婦などの戦後補償問題については、民主化と経済発展による自信を背景に断固たる立場をとっている。韓国がまだ途上国であった時は、歴史や戦後処理問題に多少不満があってもこれを後に回して経済協力を重視する発想が通用したが、今やそうはいかなくなった。」
 ☆海風:「自信を背景に断固たる立場」をとるというのは重要な指摘だと思う。日本的まあまあ仲裁は門前払いのようだ。

 (2)「韓国から見て・・・侵略戦争を起こし周辺諸国に多大な苦痛と損害を与えた責任に関する処理がとても曖昧になっている。天皇をはじめ戦争を主導した指導者たちに対する責任の問い方も不十分であったと感じている。・・・このような不完全性にもかかわらず、戦力を保持しない平和憲法を採択することによって日本が再び脅威にならない保証ができたため、日本の国際社会への復帰が容認されたのである。・・・日本の戦後の基本構造の一つの柱である安保の側面で所謂(集団的自衛権の行使など)「普通の国」への大転換が行われるなら、もう一つの柱である戦争責任の部分についてこれをもっと強化するか、少なくとも今までの歴史認識を揺るぎないものとして再確認することが当然期待される。」
 ☆海風:「侵略戦争を起こし周辺諸国に多大な苦痛と損害を与えた」というのは、満洲事変、支那事変、太平洋戦争と続く15年間を言っているのなら、戦争の舞台は中国であって、韓国ではない。だから、どうしても議論がかみ合わないのである。
 それとも当時は日本人であり、侵略戦争に協力させられた。その結果南北に分断させられたことを言っているのか? とにかく議論の場を広げ過ぎているし、中国の代弁者みたいなことを言われても困る。

 (3)「第三に、東京裁判のことである。・・・日本の政治指導者が、いくら戦争で犠牲になったすべての戦没者を追悼し、二度と戦争をしないという決意から靖国神社を参拝するのだと主張しても、韓国にはこれが敗戦処理の原点を否定し国際政治の脈絡を無視することとして映ってしまう。」
 ☆海風:こことその前もそうだが、まるで日本の左翼文化人の主張と同じなのである。日本人の場合、確かに戦争に動員されて、二度と繰り返したくないという気持ちは分かる。しかし、ここは韓国の利害とそれに基づく主張を述べるべきだろう。日本の敗戦で、韓国には統治時代のインフラがそのまま残ったので、むしろ利益を受けたのではないか。

 (4)「第四に、所謂「謝罪疲労」のことである。・・・国交正常化から五十年近くたってもなお歴史問題や慰安婦問題でもめている日韓関係を目にして、「謝罪疲労」を感じる日本の気持ちも分かるような気がするが、一方で、反省と謝罪表明があったにもかかわらず、後からそれに相容れない言動が後を絶たない・・・疲労感は韓国側にもあるのである。」
 ☆海風:韓国の主張と要求が抽象的すぎてよく分からない、というのが日本側の感じるところだろう。

 (5)「第五に、歴史問題に関する韓国と中国の連携のことである。2013年2月に就任した朴槿恵(パク クネ)大統領が1年以上たっても(安部首相との)日韓首脳会談に応じていない。・・・韓国外交の基本は米国との同盟と中国との協力パートナーシップ関係をうまく両立させることにある。・・・しかし歴史問題や戦後補償問題になると話は違ってくる。・・・(中国は)国際的な世論戦を展開しながら、慰安婦問題や強制連行された労働者問題で韓国と共同戦線を作って日本をけん制しようとしている。」
 ☆海風:韓国が中国と組むのか、アメリカと組むのかは韓国の意志決定であって、日本は干渉するべきでない。まったくの中立であるべきだろう。
 ここで、「国際的な世論戦」といっているのは重要である。当然ながら、自分たちに有利な材料しか出さないわけだから、日本側も同様の手段で対抗すべきである。インテリジェンスの強化が望まれる。
 また、「歴史問題」は抽象的で、政治の場でなく大学でやるべき。「戦後補償問題」が平和条約締結以降の補償要求を意味するなら、それはない。つまり、ゴールポストを動かすのは重大な反則なので認められない、とはっきり政府首脳(首相だったか官房長官か)が言ったとおりだろう。
 韓国側もそれを承知で国連やアメリカの地方自治体を巻き込んで日本包囲網を作ろうとしているのだと思う。

 (6)「(三国の)ナショナリズムの根底にあるのは、韓国の場合は日本の植民地支配の屈辱で、日本の場合は敗戦の屈辱であろう。中国はアヘン戦争以来の一世紀以上に及ぶ屈辱がある。・・・結局は相手の思考回路を理解するためのコミュニケーションが肝要だという一点に尽きる。意見の違いを解消することはできなくても、お互い誤解による誤判だけは回避しなければならない。」
 ☆海風:結局この「日本の植民地支配の屈辱」というところに真意があるのだろう。日本非難や要求のすべてはここから発生していると考えられるが、これは心理的トラウマとでもいうべきもので、どうにもならない。だからこそ、日韓基本条約の物質的補償(ここには、いわば名誉棄損の補償も含まれているのだろう)があったし、それで妥結したのである。
 韓国側の主張は論理整然としながら、無限要求の根拠作りという無理筋を追っているように見える。多分、日本が韓国の植民地になるまで満足せず、国際世論戦の場を背景とした要求が続くに違いない。

 次に、文化比較から見た両国関係の意見をみる。

2.古田博司×宮崎哲哉「日本と韓国・中国は違う文明圏にある」
 宮崎:ナショナリズムは・・・近代国家にとって必要不可欠な、政治秩序や統治機構を維持するための精神的インフラと考えられる。これだけ巨大な機構は国民の強いモラール(士気)なしには円滑に運営できない。近年ではグローバリズムへの反動もあって、ナショナリズムとリアリズム、リベラリズムは両立する、というのが政治哲学の常識になってきています。リチャード・ローティのようなプラグマティストですら、ナショナリズムの有用性を認めている。
 ☆海風:古田氏はナショナリズムに否定的なのだが、宮崎氏は必要だとする根拠おあげている。

 古田:国家には「正統性」と「名誉」と、合理的な国益を追求するという「理性」がないといけない。今の韓国はこの三つともだめになっている。
 「正統性」では、日本統治時代には協調して近代化に励んだ。だのに、戦って独立したと擬制したため、無頼のテロリスト(安重根)を英雄に祭り上げるしかなかった。
 「名誉」では法治国家かどうか疑われる(産経の加藤記者問題もそうだった)。
 「合理的な国益の追求」では、国内の不満を日本に吐き出す状態(先の趙世暎のいうことも、これを合理化する論理にみえてしまう)。
 ☆海風:伊藤博文は朝鮮の植民地化に反対だったのだが。安重根は高官なら誰でもよかったのか。不思議なことだが、韓国は、独立戦争を戦ったとされる北朝鮮の金日成にコンレックスがあるらしい。このことが、韓国国内に北朝鮮シンパを多く抱える原因らしいのである。

 宮崎:先ほどの定義で言えば、韓国のナショナリズムは何か暗い情念に突き動かされて、現代の先進国がモラール形成の要としているナショナリズムとは異なるということになりますね。
 ☆海風:司馬遼太郎描くところの明治日本とは印象が大きく違う。

 古田:中国、ロシア、朝鮮はウイットフォーゲルのいう「東洋的専制主義」で、要するに、分業の得意ではない社会。分業は他の職種の人を信頼しないと成立しないのですが、その信頼ができない。だから全部自分たちでやろうとする。韓国はそれで中小企業が育たない。
 宮崎:東洋的専制主義とは、うまくいっている場合「鼓腹撃壌」であって、上位の統治主体とは何の繋がりもない。こういう社会では、国家権力との契約(社会契約)とか生産における分業といった近代社会に必要な要素がなかなか根付かない。
 ☆海風:封建時代というのは、マルクス史観でいうと「封建遺制」というマイナスイメージだった。しかし、今では、地方分権であり、地域性に適合した文化、産業が発達し、明治以降の近代化へ継承されたとプラスイメージで語られている。渡辺京二「逝きし世の面影」では、外国人の目から見た庶民の精神性が取り出されていた。

 宮崎:日本には・・・大陸側の勢力均衡状態を維持し、自国の安全と繁栄を確保していくという狡知が求められます。
 吉田:結局、日本におけるアジア主義はだめなんです。日本人が片思いしても、相手側にそんな気持ちが少しもない。
 ☆海風:ここはイギリスの狡知に学ぶべきだったし、これからでも遅くはないということだろう。
 今、習近平主席の「一帯一路」と安部首相の「地球儀外交」とが火花を散らしている。

 次も日韓文化比較と言える。
 3.竹嶋渉「韓国人にとって反日とは道徳である」
 「韓国人が反日感情を持つ最も大きな理由は、日本の侵略行為に対する怨念である。それは、「倭寇」、「文禄・慶長の役(壬辰倭乱)」「日韓併合」の三つである。
 もう一つの理由は、文化優越意識である。遠く三国時代(高句麗、百済、新羅)から朝鮮時代まで、韓国人にとって倭人は「夷狄」つまり野蛮人であった。それなのに、前世紀に至って日本が発展したのは、いち早く西洋文明を模倣し、朝鮮を侵略したためであるとみなしている。」
 ☆海風:韓国の怨念は深い。安部清明の調伏に待つしかない。実際、日本統治時代の地図作成のための三角点をさして、民族の精気を奪うための鉄杭を打ち込んだとされていたとのことである。まるで中世の怨霊の世界である。

 「韓国人が自らの反日感情や反日行動を指して、「反日」と呼ぶことはまれである。たいていは、「民族感情」「国民感情」と呼ぶ。韓国は日本に対する敵対感情・敵対行動とは思っていない。実際そうだと言ったら、怒りだすことがある。
 韓国では反日感情を持たない者は反道徳的であり、非国民である。親日派は売国奴として糾弾され、社会的に抹殺される。」
 ☆海風:この指摘は重要である。実際、韓国人は自分たちの「正しい言動」で、なぜ日本が怒るのか分からないらしいのである。

 次は、目の覚めるようなナショナリズム論だった。
 4.中野剛志「そもそも経済はナショナリズムで動いている」
 「現代資本主義経済はナショナリズムによって動いており、また動くべきである。
 そのことを証明するために、まず、貨幣とは何かを論じ、貨幣がナショナリズムによって基礎付けられていることを示す。

 イングランド銀行の季刊誌(2014春)では次のように説明されている。
物々交換が同時に行われれば二物の交換だけですむが、二物が揃うのが季節的にずれている場合には、信用と負債が発生する。
 これが複数の関係の信用・負債関係となる場合に貨幣が発生する。
 貨幣とは信用であり、信用以外の何物でもない。
 かって、通貨は、国家が金などの貴金属との交換を保証していた。しかし、現代ではその保証のない不換紙幣である。それを受け入れるのは、国家が法定した通貨を「租税の支払手段」と定めているからである。
 国民は国家に通貨を支払うことで納税義務という負債を解消できる。
 国債の返済も法定通貨で行うが、それを発行するのは国家自身である。それで、自国通貨建ての国際である限り、財政破綻することはない。日本の場合は円建てなので財政破綻にならない。
 究極的にはナショナリズムが貨幣を動かしていることになる。」
 ☆海風:アダム・スミスは利己的な利益の追求が神の見えざる手によって全体の利益になると言っていた。中野は、ナショナリズムが国民の士気を高くして効率的な統治を可能にするだけでなく、同時に資本主義(つまり商人の個人主義)の源泉となる貨幣を動かしているというのである。
 今、経済的にはグローバリズムであり、政治的にも一国にとらわれないEUなどの国際的連帯がめざされている、と考えがちだが、著者はそれに待ったをかける。
 実際、EUは貨幣発行権を持っていて、加盟国は政治的主権を持っているものの経済財政政策がとれないという矛盾を生じるとのことである。ために、ギリシャのようにすぐに破綻の危機になる。
 確かに、昔習った経済史の講義では、明治日本の民衆は金を郵便貯金にあずけた。国に信用があったから。それのないインドなどでは、金のある人はタンス預金なので金が回らない、だから経済が発展しなかった、とのことだった。
 つまり、ナショナリズムでファシズムに至った、というのは病的現象なのであって、本来のナショナリズムは相互に信用し合うことで産業を発展させられる。グローバリズムは行き過ぎ、ということである。なるほど、グローバリズムの行きつくところがパナマだったというのでは、看板に偽りありであろう。

 ということで、ナショナリズムは死なず。戦争にいたらぬ「一帯一路」と「地球儀外交」で、それぞれ牽制し合いながら発展するのだと思う。囲碁でいえば白石黒石の囲み合いであるが、東アジアや中近東、アフリカの経済発展には当面のところ限界がない。牽制しながら地合を増やしていけると思う。
 もっとも、韓国の怨念問題は二国間のナショナリズム関係だけでなく、在日韓国人との国内関係という別の要素も絡むので、また改めて検討したい。


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