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2016年03月17日20:38

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時代を越えて(82) 佐藤優「国家の自縛」産経新聞社

 佐藤優「国家の自縛」聞き手・斎藤勉 産経新聞社2005 を読んだ。本書は、少し前に、時代を越えて(77)で書いた「国家の罠」新潮社2005 の解説版とのことである。聞き手の斎藤氏は産経新聞記者で、著者がソ連崩壊(佐藤優「自壊する帝国」)に立ち会っていた時のモスクワ特派員だったとのことで、当時、独自の人脈を築いて情報を収集する著者を、各国の大使館は異能の外交官として注目していた、とのことである。
 あとがきで、斎藤は異能のインテリジェンスが外務省から消えたことは国益のためには残念であるが、こうして彼の頭脳が公開できるようになったことは大きな利益である、と結んでいる。

 潰された佐藤機関と情報部局
 外務省の「情報部局(インテリジェンス)」は事実上潰された。情報で全体を見通すようなグループができると、政治家は局長や大使よりもそちらを大切にする。鈴木宗男さんは外交官の内部事情を知り過ぎた。彼らにも知られたくないことがある。
 田中真紀子さんは、「情報部局」を含めて全部を毀してしまった。外務省には国際スタンダードで(インテリジェンス能力を持って)活躍できる人材はたくさんいるのだが。
 ☆海風:下剋上を恐れたのだろうか。国家間の利害対立は必ずある。その処理のために実力行使(戦争)でなく、交渉でするべきなのだが、前提として情報を、相手の知られたくない実態も含めての知識をもっている必要がある。インテリジェンスがなければ交渉の前に負けていることになる。
 相手の欲しがるものはあげればよいという「平和主義者」もいるようだが、相手の利害関係者でないのか。民法の規定する「利益相反」(例えば、ある株式会社の社長が、自身の所有する別の会社に有利な取引をして株式会社に不利益を与える場合)が疑われる。池井戸の銀行小説(半沢直樹や花咲舞)などの主要モチーフになっている。

 ドイツの社会哲学者ユルゲン・ハーバーマスは、著書の「認識と関心」で、人間が何かを認識する時には必ずその利害関係が反映されてしまう構造になることを明らかにした。この理論を敷衍すれば、相手の利害関係を理解できるような訓練を積んでいないと正確な(情報の)伝達役になれないことになる。
 ☆海風:冷静な議論というものが難しい理由に違いない。佐藤は、そのために訓練が必要とする。

 北朝鮮問題には、朝青龍一族(ソ連時代の秘密警察と公安関係)を含むモンゴルの情報機関を活用せよ。
 ☆海風:朝青龍一族はモンゴルの名門だと言われていたが、秘密警察関係とは知らなかった。

 韓国の歴史・教科書問題での執拗さ、謝罪欲求のしつこさ
 示談の済んだ問題をむしかえすのは国際社会のゲームのルールに合致しない。だから実はそんなに怖くない。
 ☆海風:韓国はどういう手段でか分からないが、国連機関を味方につける。アメリカ議会や地方自治体も慰安婦決議をして、慰安婦像の建立を許可している。その運動を韓国政府が支援しているとのことだが。

 ロシアとの関係を突破するために、世界中のロシア学者が集まるテルアビブの国際学会に日本の学者を派遣した。その費用を(外務省に金がないので)ロシア支援委員会に用立ててもらったが、(東郷)欧州局長も外務次官も決裁書にサインした。
 それが2年後に背任(目的外使用?)となった。これからは、例えば中国との関係改善の研究会を開く、といっても不可能になる。
 ☆海風:政権がころころ変わると、各省内の権力関係も不安定になるのだろう。正式な決定がなかったことにされてしまう。

 文字改革をすると、それ以前の文献が読めなくなる。革命は文字改革によって前代との連続性を断ちきる。
 ドイツの髭文字、中国の簡体字、革命後のロシア、韓国のハングル化、日本の戦後など。
 ☆海風:私は俳句の(てにおは)は文語で、と思うのだが、辞書を引きながらの作業が面倒になる。明治の小説は漱石からとなってしまう。

 日本人が自らの神話に基づいて歴史をつくるのは固有の権利だ。
 ☆海風:だから、歴史認識の一致など無理なのである。中国と韓国・北朝鮮も高句麗が中国か朝鮮族かで争っていたし。

 イデオロギッシュな朝日新聞は怖くない。岩波は現実的な所があるのでかえって恐い。
 ☆海風:新聞と月刊雑誌(世界)の違いかもしれない。新聞は毎日が急ぎの仕事だから型にはめないと書けないのだろう。新聞は読むべきだが、読み返すものではない、と言われているし。

 旧ソ連諸国の友人も、国家、民族に殉じる気構えがあった。排外主義が異常に刺激されると民族浄化をもたらす。しかし、国家に対する忠誠心がある限度以下に下がると、ソ連のように国家が内部から崩壊する。そうなるとその土地に住む人々が辛酸をなめる。
 ☆愛国心というと、マスコミから右翼・排外主義者とされてしまうのでないのか。

 ベストセラーの「靖国問題」(ちくま新書)を書いた高橋哲哉東大教授は、国家悪を強調しすぎるゆえに、私のような「国家の罠」にはとらえられていません。しかし、別の罠に捉えられている。それは、人間は未来永劫に悲しさ、加害者意識を持ち続けなければならないという「悲しみの罠」です。
 ☆海風:誤解していたのは、国家(外務省)の罠にはめられたという意味で「国家の罠」を読んでいたことだった。そうではなく、国家の持つ矛盾に捉えられてしまう、と取った方が正解に近いようだ。
 この本は読んでいないので何とも言えないが、加害者意識というのは日本だけに向けられたものでなかろうか。全員が持て、といえばキリスト教の原罪になる。日本人の典型は宮沢賢治だろうと思う。

 日露の北方領土問題
 ドイツとロシアの間で戦後処理はすんでいる。しかし、日本に北方領土問題がある。2005年(ロシアの戦勝60周年)に、小泉首相はプーチン大統領に歴史の事実を指摘するべきだった。「ヒトラーのドイツにソ連が勝てたのはなぜですか。日本が日ソ中立条約を順守していたからでしょう。それを一方的に破って侵攻したから北方領土問題が発生した」と。
 佐藤グループがいれば必ずそうさせた。
 ☆海風:外務省で著者が浮いていたとすれば、日本の外務省とは国際的社交界のために外交官を養成しているのかも。

 対中国牽制、イスラム原理主義封じ込めという目的で、日本が中央アジア、トランスコーカサス地域でロシアと提携することとパッケージで北方領土問題の解決を戦略として提示すれば、プーチンは関心を示す可能性がある。
 ☆海風:近いことを安部政権がやっているのかもしれない。

 ソ連共産党は、民族主義者であった(北海のヒグマ)中川一郎を信用し、彼と同じ清和会の安部晋太郎元外相を好んでいた。イデオロギーで対立しても、愛国者という人間性の方を重大に考えているのである。つまり、行動原理が理解できるから、とのことのようである。ウオッカの乾杯で相手を酔いつぶすのも本心を知るためらしい。
 ☆海風:昔、河野一郎は自分は民族主義者だからソ連で信用されると言っていた。その間50年。変わっていないようだ。


 北畠親房が「神皇正統記」を書いた動機は、日本の原理、神道の原理を明らかにするために、中国やインドと比較研究するためであった。中国は革命の起きる国。日本は革命が起きないで正統な権力と伝統が維持される国。そして、他の宗教に対する理解をすすめるなど、多元的な世界観を説いている。
 陸軍中野学校をつくった秋草俊は、陸軍大学校のような軍事エリートは視野が狭いと退けて、一般大学から学生を募集したのだが、精神教育が必要だとして、五・一五事件で陸軍士官学校を放逐された吉原正巳に、楠正成と明石元二郎(日露戦争時のスパイ)の国体観を教えるように依頼した。そのためのテキストは、神皇正統記と太平記であった。
 ☆海風:このあたり面白い。何かまとまったものを読んでみたいと思う。

 1回目の国体の危機。明に臣従して日本国王位をもらった足利義満が天皇位を継ぐとしたとき。なぜか前日に急死したが、多分、毒殺だったと思われる。
 2回目の危機は、前の大戦。皇室があまりに政治や軍事に巻き込まれた。万一、共和制になっていたら、いろんな国際的力学に左右されるし、国民的人気のあった田中真紀子さんのような人が大統領になったら国政が大混乱したと思う。
 ☆海風:著者は三島由紀夫に近いのだろうか。三島は天皇制を民族の空間的だけでなく、時間的統一性のために必要としていた。

 大川周明は外交戦略上、米国との関係だけは全体に崩してはならないとしていた。米国は日本と同じく、植民地支配に反対する。だから、英米の間を離間させて、英国とだけ闘うことは可能である、と考えた。
東アジア共同体という選択は、米国とぶつかる。また、戦前の大東亜共栄圏の論理構成と似ている。
 大川周明「米英東亜侵略史」には、論理的にすぐれていた大東亜共栄圏構想の破綻の理由として、アジアを解放するつもりが結果的に踏み付けたことをあげている。今、中国が同様のことをしている。それに、東アジア共同体の底流には反米がある。
 ☆海風:それなのに。動き出したら止まらなくなった。確かに、利益集団の混合体で、統一した意思決定ができなかったのだ。
 その面で、戦後憲法は改善されている。国会の多数派が内閣をつくることで、国会多数派・政権が一致していて、最高裁は憲法解釈の統治行為を国会に委ね、ということは内閣の権限として認めている。残った問題は衆院と参院のねじれだが。

 イランとかレバノンとか、価値観を共有できないような危険国家とイスラエルを同じように天秤にかけて考えたら大きな間違いです。
 ☆海風:安倍政権の価値観外交や外交白書での「価値観を共有」の文字など、著者の考え方と一致している。

 イスラエルにとって日本とは「杉原千畝の国」。
 米国の国務省では、親中派と親日派との間の綱引きが戦前からある。永遠の同盟はない。日米のきずなを固めるためにイスラエルを味方につけなければならないし、それは可能である。
 ☆海風:英文学者で評論家の渡部昇一も、昔、同様のことを書いていた。


 朝日新聞イコール左翼で国際協調主義、産経新聞イコール右翼でナショナリズムという図式は間違い。個別の報道に基づいて判断すべき。朝日がナショナリズムに振れたのは六十年安保の時。それに、二島先行返還論(日ソ共同宣言にあるとうりなのだが)のとき。これは、鈴木宗男と佐藤優が独断で交渉しているとの批判を朝日(アエラ)が音頭をとって、産経や読売が続いた。
 ☆海風:著者の態度はリベラルだと思う。敵だから口も利かないということはない。味方も同様で、環境によって変化するから。そのなかで信用できるのが人間性。なかでも愛国心が一番分かりやすい。
 ただし、昔からの教訓として、知らない人間と酒の席などで、政治・宗教・民族の話をしてはならないとされていた。プロのインテリジェンスである佐藤優はそれこそが人間関係の基点だとする。
 これこそがリベラルなのに違いない。

 ということで、民族主義や国家主義はリベラルであることと矛盾しない。私もそう思っていたので、佐藤優も同じ考えだと知って意を強くした。
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