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2014年06月10日20:28

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カンガルー日記(3) 入院中の巻 入院病棟の役者たち

「総回診」
 一団の医師たちが入院患者の病室を回っている。
 私の病室では、担当医師が説明している
 真ん中にいる温顔の医師が院長のようだ。

 腎臓が悪化していて、治療に入るかどうか、副作用があるので慎重に検討しています。
 熱はありますか。
 はい。37度です。
 少しあるんですね。

 微熱がとれないほかは、病気の気がしない
 回診の後、廊下の端で屈伸運動をした。
 とにかく体が硬いのだ。


 「リハビリ療法士のコミュニケーション」
 元気になって、また、リハビリしましょうね
 植物状態の老人に療法士が話しかける。
 老人はアーアー、ウワツウワツと言うばかり
 歯を磨かれるときは、強い調子になる。
 体の痛みには反応するのだ。

 しかし、何を言われたのかまで分からないだろう。
 それでも、話しかけるのは大事なことだ
 猫にも、犬にも話しかけることが大事なのだ
 私と言えば、黙って餌をやるだけである。
 わけのわからないものに話しかけても仕方がない
 そして、わけのわかるものにはなおさら話すわけにはいかない。
 長い人生、沈黙が金だった。

「医師」
 すべての指示は医師から出る
 後光を背景にしたような落ち着いた物腰
 病院内では、医師だと一目でわかる。
 確かに、医師が自信なさげだと、患者は立つ瀬がない。

 そのようにあるべきだ。
 しかし、紙芝居のように役柄にはまっているので
 少しおかしいのである。

 「看護師」
 女性の看護師は元気だ
 昔風に言うと看護婦さん。

 きびきびてきぱき
 明るい声で
 患者の注文やクレームをこなしてゆく。
 時には厳母
 時には姉のように。

 女の色気
 それが患者の爺さんたちにうまく作用している。


「認知症の患者」
 見舞客の女性たちから先生と呼ばれている。
 私、わかります
 何、わからない。こんな美人を。

 弱々しい声で
 お願いします。小便したいんです。

 そのたびに、看護師も介護士も
 チューブで袋に入っているから
 大丈夫ですと言う。

 しかし、1時間ともたない
 「博士の愛した数式」のように
 記憶はリセットされて
 体の記憶だけになってしまうらしい


「元校長先生の患者」
 青年の介護士がたくさんの薬を持って来たらしい。
 老人は何の薬だと尋ねる。
 私、介護士なので、たくさんの薬のこと分かりません
 看護師さんに聞いてきます。

 老人は怠慢だときつく叱る。
 さすが、校長先生だっただけのことはある
 説教癖は抜けないらしい。

 急いでやって来た看護師さんは
 ごめんねー
 皆、前に飲んでいた薬だって
 一つだけ減らしたって
 この津村順天堂の薬
 これはむくみをとるものね
 私も妊娠中に飲んでいた。

 看護師さんの
 あっけらかんとした声で
 老人は毒気を抜かれたらしい。

 介護士の兄さんを叱った
 謝っておいてくれないか。

 
 「遊ぶ看護師さんたち」
 植物状態の患者が
 アーウーウーと大きな声を上げる
 あ、怒ってますね。怒ってます。
 フオーフオー
 お風呂だって、お風呂が好きね
 お風呂は明日だよ。

 (看護師の)山のさんどこ
 その辺でもぐってる。

 これ痔だよ
 痛くない、診てもらおうか。
 私なんか本場のキムチ食べて脱肛したよ
 ヒエー

 とにかく看護師の仕事は多い
 患者はいろんな要求をもちかけるし
 無碍なことはできない。
 遊ぶことでストレス解消になるのだろう。
 

 「一人住まいで倒れて担ぎ込まれた患者」
 植物状態の老人が病室を移って
 新しい患者が入って来た。

 奥さんを亡くした後の一人暮らしで
 弟と連絡を取ってほしいという
 看護師さんが詳しく聞いている
 自分は長男、妹が大阪、二男が千葉の山武市の実家を継ぎ、三男が同居している
 ところが、2カ月ほど前に実家に電話すると
 違う人がでる。

 福祉相談員も来て話を聞いていたが
 なにしろ要領を得ない。

 このブレスレットかっこいいね
 これは自分で作った。
 口髭などもはやしてかっこいいのだ。
 美術関係の人だったのだろうか。

 泣かない、泣かない
 何とかなるよ。


 以上、カンガルー日記は終了します。
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