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2014年06月07日17:17

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カンガルー日記(1) 入院の巻

 風邪だと思って近くの診療所に行ったら、血液検査、尿検査に腎臓をМRIをみて先生が、こりゃなんだ、どうなってる、こりゃいかん。電話するから、すぐ専門病院へ行くこと。即、入院になるかもしれない、と言うではないか。
 やれやれ、紹介状と検査結果を持って、地図が読めそうにない看護婦さんにやっとこさ場所を教えてもらって、出かけたところにはまだ若いが精悍そうな先生がいた。
 一層詳しい検査結果を見ながら先生は、突然死の恐れあり、明日から入院と宣告した。
 翌、金曜日の朝、色白の看護師さんに案内されて、6人部屋の廊下側ベッドが寝ぐらとなった。

 私は、かみさんが入院した時、まずくて食べられんと言う夕食を食べに通ったことはあるが、自身の入院は初めてである。ベッドの上の透明なバッグからカテーテルというチューブが伸びている。尿のバッグはベッドの下についている、ということで安部公房の最後の小説「カンガルー・ノート」状態なのである。つまり、人生の最後に袋付きに進化だか変態だかしたわけだ。自由に歩き回れるのは、同じ廊下の病室全体でも私だけらしい。

「病室のベッド」
 空になったベッド。
 窪みも乱れもなくなって
 ただの白い平面になった。
 患者は家に戻ったか
 それとも土に還ったか
 鉄パイプのベッドは
 だまって、次のパートナーを待っている。

「墓室のミイラ」
 個室のベッドで
 一人の老女が上を向いて寝ている。
 傍らに白い大きな蘭の花。
 ガラスを透かしてみた、その固まった姿は
 数千年を経た古代エジプトのミイラのようだ。

「お通じ」
 看護師さんの弾んだ声
 たくさん出ましたね。
 こんなにたくさん。
 
 時々混じる老人の
 重くよどむ声。

 すっきりしましたね。
 お通じがあって。

「ねずみ」
 老人のベッドに奥さんと娘さんがやって来た。
 ねずみがいるんだよ
 あそこにも、そこにも。
 何を馬鹿なことを
 ここがどこか言ってごらん。
 千代田の公民館。
 何言ってる
 お婆ちゃんに叱られるよ。
 ほらほら天井にいっぱいいる。
 ああこれね、水が出るんだよ。
 ねずみに見えるかね。黒いからね。
 でも、病院だからね。
 いたら大変だよ。

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