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2012年04月28日20:45

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映像の向こう側(22)  美しい紅黄葉の中の骸骨

 坪川監督プレカット版「ハーメルン」2012 は、紅葉黄葉の美しい山村とまともな会話のない人々の物語である。もっとも、封切りに先立つテレビ放映で短縮されているために、特に、どういうフィナーレになるのか分からないが。
 廃校の小学校の庭は銀杏の大木が黄色に染まっている。その下で元校長で、ここに住んでいる老人がコーヒーをいれている。優雅ではあるが、遺跡の発掘品の整理が終われば解体されるために、出てゆかなければならない。そして、この銀杏も倒されるらしい。
 県立博物館の学芸員(主人公)は、実はこの小学校の廃校に立ち会った卒業生であった。元校長は彼の名をよんでコーヒーに招く。彼は、もう忘れておられると思ってと、名乗らなかった弁解をする。
 飲み屋のママ(倍賞千恵子)は、担任だった女先生の娘で、入院しているので会ってやってくれという。しかし、彼には会いたくない理由があるようである。
 そのママは病院の院長から、お父さんと仲直りをしないのかと問われて、余計なお世話ですと愛想がない。父は、閉じた映画館に住んでいて、彼女はピアノを引き取りたいとやってきて、父を慌てさせる。ああ、ああとしか言えず、それしか言えなくなったのかと突っ込まれる体たらくである。
 元の同級生(役場の職員のようだが)と、廃校式の時にタイムカプセルを埋めた話をするが、同級生は忘れていた、学芸員も埋めた場所が分からなくなっている。
 学芸員は、すっかり雪に埋まった学校に再びやってきてタイムカプセルを探し始める。じつは、その中に女先生の大事にしていた時計(大連からの引き上げの時それだけを持ち帰った)を入れてしまっていたのである。その理由は、プレカット版では分からない。
 人間誰しも、知られたくないことがある。イギリスだったかのことわざに、人は皆押し入れに骸骨を隠している、という趣旨のものがあった。この場合にはタイムカプセルの中に隠したらしいのだが。
 しかし、主人公のみならず、主要人物は皆、骸骨のせいだと思われるが、言葉に困っている。およそ、まともな会話のない映画であった。
 いや、実人生もそうなのだと思う。
 ところで、この学校の校庭にはかっては桜の木があったとのこと。みんなの思い出を吸っているから美しいのだ、と言われていたとのこと。
 死体を養分にして咲く梶井基次郎の桜よりこちらの方がいい。
 多分この映画の結末は、思い出と和解するシーンではないだろうか。唯一残った証人の銀杏を倒さない。いささか、希望的観測ではあるが。
 
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